コンテナガレージ

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赤が染色、変色 3

「収容人数は千二百人、だそうです」参りました、と付け加えた他人事のようなカワニの発言は、大き目の会場に目星をつけて、ありとあらゆる会場を探し当てる今回の戦術が引き起こした。完全に把握しきっていないまま、見切り発車で、ツアー会場の選考が行われてきた証が彼の発言に集約されている。アイラに驚きはない、平静そのもの。いつものことだ。つまるところ、会場の要請は突発的なキャンセルにより決定した会場がほとんどであり、そのほかは会場を探すこちらに逆オファーという形で舞い込んだ、その要望に応えた。つまり、募集をかけていることを知らせ、それに会場側がアイラの人気を理由に丁重な態度で未公開の文化財等の提供に応対してくれた、このような説明が可能だ。

「観客は二百人にも満たない人数だと把握してますが」三週間の平均集客数は一公演あたり、約百十五人。アイラは瞬時に数字をはじき出す。

「ステージ中央の席でも七百席以上……、はあ、赤字は免れません」

「ホールの使用はいつごろ決まったのでしょうか。空日程を作る会場側の思惑は?交渉を持ちかける立場に私たちはまだ片足を引っ掛けている、そうは思いませんか?」

「その頭脳はぜひ事務所の経営にまわしてくれると大変有難い。いつも痛感しますよ、わかってます、高望みですね」カワニがはにかみ、次の瞬間にさっと笑みを取り去る。「交渉してみます」

 数分の短い交渉の末、結局、彼の積極的な相手の足元を見た、交渉は成功に達した。招き入れる客数に不釣合いのコンサートホールの提供を主催者の大分コンベンションセンターの所員も多少引け目を感じていたようだ。

 コンサートホールの隣、リハーサル室へ会場が移された。室内の説明を受けるアイラの横でアイラの知名度を見誤ったホスト側の選択だった可能性を、交渉をまとめ上げたカワニは話す。彼の表情はわかりやすく引き攣っていた、かなり肝を冷やしたらしい。

 天井が低い、先ほどの歌劇場と比べるなというのは無理がある。臨機応変に体感を逆手に取る、お客の心理に立つのなら彼らの望みは場所のほかに存在するではないか。私と私が歌う歌とギターの混然を一目見ようと明日を夢見るのだ、会場の良し悪しは無関係、そうはっきりと言い切れる。