コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

あいまいな「大丈夫」では物足りない。はっきり「許す」がききたくて 2

 小川安佐はpizza(ピザ)生地の具合を一時間の休憩から戻る館山リルカに見てもらい、かろうじてお客さんに提供を許す合格点をもらった。店長はそ知らぬ顔に過言(いいすぎ)はと、それでもpizza(ピザ)生地については先輩に全権を一任するのだった。たまに確認をする先輩と店長のやり取りでは店長が直接生地を指で突いたり、目視はほぼほぼ聞かれない。絶対の信頼を置くというのでもなし、たまにこっそりと店長は盗みることもこれまたまったく私の目の黒い勤務の間ありはしないのである。お客さんの苦情を目安に判断をするのかも、けれど手遅れならとっくに店長のこと改善策を講じてる、とあれこれ思う小川は本日の休憩所を探す。足の運びは後続への迷惑を考慮した都会の流れに乗せる、駅前通りを闊歩した。

 愚図ついた天気が続く。気分は落ち込みがちだ、自動車走行競(motocarr race)はこの二週お休み、週末の娯楽はお預けというわけ。 

 橙色(orange)と緑が目に眩しい。S駅に向かう。歩道は街路樹と長椅子(bench)の隙間にこれ見よ逃がしたら損であろうが、幟が羽翻(はため)く。引く切り無しに勧誘を受け、なんとも気忙しや。

 それにしても、小川は四丁目の交差点に佇み見るともなし斜向かい『PL』二号店の賑わいを観察(みて)みた、好敵手(rival)店の偵察というのだろうか、はっきりしない態度は明らか、随分湾曲した解説である。信号が変わってまっすぐ進むはずが、斜めにつま先が向いてしまった。よくある。前の人に引っ張られてついうっかり行き先を間違えてしまう。曲がりたいのに人が横切(とお)ったり、動き出さんとする車が止まっていると躊躇いが生じて意志を殺し無難なほうへと私は足を向けてしまうのだ。いかんいかんとは思ってる。真直(なお)したい。だけれど、うん、小川はたらんと交差点中央の斜線を曲がる白線指示が織り成す角に平面を要した図形を通過して、私はそれほど目的を達成する胆力(vitality)にあふれる性分があるはずもないで、それこそ周りが見えなくなるのめりこんだ姿は私自身これまで生きて来て数えるほどだったもの。忘れているのかも。近年働き始めてから特にその発現は見られなくなったろう。「逆に」という意識だ。あまり使いたくはない言葉に私が定めるのは、たぶん、いんや絶対といえるか、軽んじるあまり無意識に不適切な場面にでも平気で登用してしまう場面を幾度も見させられるからなのだ。人のことは言えない、私のことはいつだって二の次なのだ。そう、こうして行き先(あて)もなく『PL』に並んだ列を眺めるときにも、対向車や追い抜く車、行き交う人、自転車に気を配り、さらには落ち着ける喫茶店も探索(search)、さらにさらに女の刑事についてもあれこれを想像をこねくり回すのだわよ。

 車を避け細い路地へ逃げ込む形をとった、前から歩いてくる集団が一向に道を譲らないのだ、後方の車を気遣うなんとおやさしいことでしょう。それに比べて。そぞろ歩きに鈍感はつき物であるのかしら、いやいや持ち寄る一塊たる安心感が危を察する機能低下を招いてるのさ。一人者は全方向気を張り不意より訪れし接近を避けるはこれしか体にびりり信号を送信続けることが必要なんだろう。だから人は人を抱えたい、守られていたい、養う立場も実は守られたいのだよう。

 小川は路地を、そのまま南へ下った、いつも直進通り過ぎる道幅が景色だったがなんとなく体を戻すのも億劫に感じなすがままに歩く。するとなんとも偶然とはこのことでいまどきの高層型集合住宅(mansion)よりも断然細いtall building(ビル)の一階にうっすら黒を混ぜた色硝子が窓を見つけた。こんなところに喫茶店が、小川は口をあけてtall building(ビル)上部を仰ぎ、ばしり一度眺め、お隣は大掛かりりな改装に半纏姿の頑固一徹が案山子みたくて私と角度を同じに、こちらもぱしり、と店に入った。

 蝶ネクタイの主人(master)が笑顔とも無骨とも取りようをそちらで何なり思うとおりに長尺対面台(counter)中側より出迎える。「どこへでも好きなしかし空いてる席へ、膝の上に乗ってはなりません」無言であったが、どこかおしゃべりな性質に思える、同属が発する匂いがそうだ、虫にでもなったつもり、色はどれどれ何色が削られてんでしょうね、ご陽気なことだ私。

室内は音の類と別れたらしく居りません、静まり返っている。窓際が三つの真ん中に腰掛けた。深い青の長椅子(sofa)は背もたれに賽(さい)ころの五を模した配置に飾りの釦(ぼたん)が縫いつく。数㎝上だと背中のツボにしっくり填(はま)るだろうか、背中は筋力が支えてる、うーんと彼女はなぜはっきりどちらかに決めなくてはならないのか答えを出す。水が運ばれて、傍らに立つ主人(master)はおそらく、いえいえ、確実に注文品(menu)の決定に悩む少女、もとい成人女性、いやいや休憩中の飲食店従業員と思い当てるに違いない。面倒というか、ふらりと店を出たためサロンははずしていたのだけれど白衣(はくえ)は着用したまま出てきてしまったのだ。今の今まで気がつかなかったのは、考え事に皆勤賞ものなる煙草が、胸袋状物入(poket)の釦をはずす襟元へすっと手が入ったあれまと、赤らめた顔を鏡なしに見れたのです。

「あ、ice coffee(アイスコーヒー)。あっとそれとミルクフランをひとつ」かしこまりました、四人席(table)を離れる主人(master)を呼び止める。「あのう!ミルクフランは持ち帰り(takeuot)はできたりしますか?」

「ええ、できたりします」

「じゃあ、会計のときに四つ包んでください」

「おひとつを四人席(table)に四つを持ち帰り(takeuot)ですね」

「はい」

 二回目はかしこまりましたを言わなかった。畏まるとは、一度畏まったのだから二度目にまた畏まるのは行為に即してませんことだ。主人(master)なりの考えよった接客なんだろうな。またまた不確か。

 小川はどうにも寄り添って仕方のない曖昧は一体全体、どちらさんから舞い込んだのか探ってみた。本当は一息ついて店長についてと事件とあの刑事さんについてあれこれ思案を重ねて、はっと端末に目をやり休憩終了の五分前で、急いで店まで駆けて、それからはもう超特急で夕食(dinner)の切締註文(rast order)まで一目散のまっしぐら、という構想であったのに……、優柔不断にとうとう頭(かしら)の隅にむきり角(つの)が生えてしまったのさ。そうに違いない。なるほど推測は臆断でもあいまいさを跳ね除けると、どうやら訂正はされないらしい。

 なあにを一人で私はぶつぶつ呟いておるのだろうかね、「だろう」で締めくくらないと古臭い言葉に頼ってしまう。どちらも通じる言葉であるのに、言葉尻のニュアンスはそれほど本質に影響しないだろうに、まったく。おっと、これも許されるらしい。まったく。

「主人(master)。ご無沙汰しておりました。遅れて申し訳ございません、一度に全部をまとめてお返ししたくこのように長々間を空けた訪問になってしまいまして誠にご無礼と多大な迷惑をおかけして、ほんとうにどうお詫びをしてよいのやら」

 うちの店より乾いた音の鈴鐘(bell)が扉(door)の思うに任せる震え。帽子を被った老紳士が登場するなり低頭、なにやら過去の清算、非礼を詫びていた。ほかのお客さんも一度、二度その様子を見るもすぐに各自の休息に徹する。長尺対面台(counter)に上着を脱いだwhite shirts(Yシャツ)姿の男性一人、私の背後一箱別長椅子(sofa)席に女性二名が座る。L字型の長尺対面台(counter)に人影が見えるも瓶詰めのcoffee(コーヒー)豆に隠れて性別はおそらく、いいやわかりませんにしておこう。

「いけません!『大丈夫』は撤回してくださらないと収まりがつきません」

 ミルクフランは甘かったようぉ……、甘い非常に甘くあれは練乳の甘さだ。つまり牛乳と砂糖である。そのほかの材料は、思い出せない、製造者みたい。麵麭(パン)は柔らかくふにゃふにゃ、端を持つと垂れ下がった。うん、麵麭(パン)自体にも甘い印象を舌が覚えてるって言うんだ。表面は白い。弾力を謳った食麵麭(パン)の焼き色だな、小川は控人工音(bgm)代わりに精算機(レジ)前のやり取りをそれとなく窺う。窓の外は小雨が降っていた。

「そうおっしゃらずに私などに情けは無用。いっそのこと殴りつけるでもして、ほうら気を晴らしてください」

 お客さんが主人(master)にお金を借りた、それからあれから月日が流れ本日借金返済の日取りと相成ったわけであある。お客さんは殴(ぶっ)てでもいいから気の済むようにしてくれと投げやり。とはいえ、主人(master)の表情真見事に変化これなし。飄々としてる。怒ってもいるし泣いてもいる、左右に引いた口の具合なんか思わず漏れた笑みだ。

 『大丈夫』、撤回を願いしお客。もう不甲斐ない自分を気遣うのはよしてくださいよ、とまだ自分本位を貫くか、図々しいよそれは。

「だったら仕方ありませんな。このとおりです、『許可』をいただきたい」

 ここで主人(master)が口を開く。一瞬手を止めて引いた顎、上目遣いにお客を見やった。

「『許可』は求めに応じて出したり引っ込めたりする代物と私は認識をしておりません。『大丈夫』について多少の意味を取り違(ちがえ)るずれが私との間に居ます。六年前の食い逃げを『大丈夫』、とわたしく答えました。これは警察には突き出しません、という意味です。お分かりであれば、料金は受け取りました、飲食をされるのであれば空いた席にお座りください」

「『許可』か『大丈夫』をどうか、どうにか、救いようのない私に、最後のお願いですぅ。これでは死んでも死にきれないばかりか、心残りに私の魂は成仏できませんではりませんかぁ」あーあーっ、人目も憚らずお客は泣き喚いた。さすがに聞かぬ振りに徹したお客たちも何事かと様子を伺う。

 主人(master)は我関せず私の四人席(table)へice coffee(アイスコーヒー)とミルクフランを運んだ。主人(master)が長尺対面台(counter)を出た、高まると思いきや頂点(peak)を過ぎ彼女の脇に立つはぱたり止んだ。主人(master)は眉を引き上げた。非常識なお客に私は辟易してる、あなたも迷惑を被るのでしょうね、申し訳なく思いますが退出を願うには相応の理由が必要です。飲食店に勤めるあなたは分別を忘れたお客が労苦は知り尽くしてることと存じます、と勝手に読み取った。

 お客は暴れに暴れた。言葉の暴力である。正攻法に見切りをつけてしまって、逆上、手に負えない。それどころか、格段形振(なりふ)り構っていられるか、振り切った境地に鬼気迫る形相が帯びてしまう。多少、恐怖を感じた。下腹部を打ち殴(つ)け響く銅鑼だ、悪態が衝撃波の威力たるや鳩尾あたりにさわさわと焦燥が誘う。

 長尺対面台(counter)に突平伏(つっぷ)、思いの丈を吐露(ぶつけ)る。まるで檻が鉄格子を間に決して主人(master)には触れない。手が伸びる。屍、悔いが残る断末魔が繰り返し、喉声でもって、必死に『許可』か『大丈夫』をほしがる。

 口約束は契約、それとも隠語か何か。物かも。

 うん?ありり?小川は思いつきの訂正を予想したはずも、当てが外れた。予測は適切に思考を操って船頭の真似事に徹したというのに。底に押し付ける竿の岸を離れて流れに任せた。くるくる船首の変わること。

 それにしても長尺対面台(counter)の天板が叩かれて角砂糖の容器がぶるっと震える金属音に飛び上がって縮みあがる、『許可』で救われるだろうか。、本人の受け止め方次第だと思うのだよ、深く掘り下げると。小川は中空管(straw)を摘んでカランころんり、ころころ、氷に回遊気分を味わわせる。そして吸引。

 映像大幕(screan)の上映会、白と黒の物語に場違いな私が、一色で以って影(すがた)を現し繰り広げる展開の傍観者と出演を兼ねる、そんな気分。

 許してはもらっているのだし、それほど『許可』に固執(こだわ)る理由が思いつかない。これは本心。『大丈夫』、他人行儀、つまり邪魔者(あしらわれる)のは困って、証を発行しはっきり今日のこの時点これこれなる者に『許可』を与える、と断言を頂戴したい。

「だったら領収書を書いてもらえばいいのに」咄嗟に言葉が口をついてしまった。店中の顔と倍の瞳がいっせい私を見つける。

 騒動の主がつかつか小川の四人席(table)に距離を詰めた、風が巻き起こる。身を逸らすにも頑丈なつくりと重さの張革長椅子(sofa)がそう易々成人女性の体重でひっくり返ったりはしないのだ。

 苦い唾を飲込む、張り付いたcoffee(コーヒー)が流れたみたい。こんなときこそ瑣末なことが身に染み気に掛かる。いいや、と訂正。迫る顔。緊急時であるから焦点(focus)が合った、取るに足らない私事だから見えてしまった。非日常であるからなんだろう。

「……お嬢さん」たっぷり間が空く。この両手は王子様に見初められた童話の世界の一場面(one scene)。「いやはやあ。今の今まで見落としてましたよ。あなたは私の救世主だ。いや、創造主かもしませんよ。今まさに私は生まれ変わったのですよ、はっは」訪問者の華麗な舞、見事な軸回転(turn)を決めるがはやく主人(master)に領収書を書くように願い出た。「日付は五年前の今日、六月の二日ですよ、間違えないでくださいよぉ」

「八百二十円です」

「消費税も当時の割合とは、恐れ入りました。私が指摘するまでもなく、はははっ」胸を張って、自分を笑えるのは余裕か慰め。あの人は前者が適当さ、小川は緊迫(thrilling)な休憩という体験がかなり疲労を取り去ってる事実を全身の脱力で思い知る。マジカノタイメンガキンチョウ、シイタ、そして弛緩。店長はどこかで体を精神を緩めているに違いない、間違いなくだ。言い切ってしまえる私というもの案外悪くはないのかも。不断は私を鈍くさせるなまくら刀。そういえばだ、knife(ナイフ)が凶器に使われたとか雨合羽(raincoat)の女の人は断言してたけど、宣言にいたる思考回路はもしかすると、「現実であれ」願った想像を前面に押し出したのかもしれない。あの女性(ひと)は『はい』と『いいえ』を強制したっけ。あいまいな答え、しかしあれはどちらかを選べと強気に、結果は死刑宣告にも通じる悲壮な仕打ちを言わせる、言わせたんだ。きっぱり諦めたかもしれない。切り捨てる覚悟を相手に委ねた、命綱は自分では切り落とす勇気が少しばかり、うんやぁ臆病だからこそ相手に託したんだろうね。

 鈴鐘(bell)の音色は快活だった。人影は窓硝子に映らずに反対方向、南へ向かった。観光客が傘差し窮屈な上向きに端末を構える、ファインダーを往く就職活生が詰め寄る、顔の撮影は許可制が敷かれるのだ。人権が行き着いた先がこの有様だけれど直に観たのはこれが初めて。人物を顕わす証に写真を廃し端末が代わりとなる、一枚の写真代はばかにならない、たしか建設会社が火付け役だと記憶するが、糖分は取り入れる最中だもの、探る労苦はぷつり切られましょうさ。

 ミルクフランを一口大にちぎって口に投げ込む。うっすら黄色に染まる乳脂肪(cream)は糖分そのもの、ああ舌にしっかり生き様残しておさらばさらば。

 あっという間は大げさ、しっかり私は次の一口を大きな、食事時にだけ活躍する吸引口がまたとない機会を逃すまいとさ、ぺろりとふんだんなる甘き棒を捕らえ、苦味を欲し、ちゅるちゅる琥珀な液体を追加で送り込んだ。

 おいしさに気をとられて彼女は肝心要主人(master)のその後を確認し忘れてた。

 飲食店のそれも長尺対面台(counter)内の店主は似てしまうらしい。これは本心。いつもお客に観られてる状態が通常であって、仮面(persona)は家に帰ってももしかすると外れないのかも、それほど引っ付いて偽りの性格が板についてしまった、という検討はいかがだろう。私への提案。小川は喫煙の許可を白衣(はくえ)の内袋状物入(poket)から煙草を取り出して主人(master)を見やった。

『大丈夫』なのか『許可』か、曖昧な頷きである。私がすっかり訪問客を忘れていたから主人(master)は頷き返してくれたのかも知れない。大理石柄(marble)の陶器を引き寄せて煙を放つ。男の人の目は気にならなくなっていた、考えるに私は誰にとって最良であるかが見えてきたからだ。つまり、主人(master)にも性別を問わずほかのお客にも私はいつまでも見られる立場ではないのさね。これなら言い負かせる。

 向いの駐車場雑草の隆々光が目指す。刈ってまもなくの青臭さが記憶から想起。緑は幟、橙色(orange)が連想を系(つな)いだ。

 『する』と『しない』は『PL』店主の口癖、『はい』と『いいえ』は雨合羽(raincoat)、『大丈夫』と『許す』。S駅の事件と関係があるのかしらん、刑事さんが登場したのは何かしらそれらしい証拠なりきな臭いにおいを感じ取ったんだろうから、そうよ、しらみつぶしは奥の手のはず。見当をつけた箇所を調べ、その結果を踏まえ次の検討先を、という形式を取るのさ。刑事さんは単独行動だった、人手不足か、またもや特別捜査だったら人員の大量投入は難しい。

 引き寄せた灰皿がglass(グラス)を叩く。ギン、短い音が鳴った。

 改札前終電間際、駆ける利用客を人払い。年末年始さえここは不断の利用、早朝であっても特急電車や各地へ飛び立つ空港利用のお客がちらほら中央広場(concourse)ですれ違い見かける。何かしら目を引く余興を仕掛けていたんだろうか、詳しく話すと目撃に黙秘を添えたら?反論はなし。では警察の聞き込みに嘘の証言をつこうと得たかった出会いや情報の対価だったら。このごろは無料が大流行だもん。

 それによ、彼女はわだかまりに捉る。店を離れた種田と店長との関係を少々、いいんや、だいぶん疑う。だってわざわざお店に運ぶっていうのは、刑事、警察、捜査をおおっぴらに棚引かせて公務ですよと、それはやっぱり筋が通らないように思う。店長目当てに足を運んだのではという感想。

 S駅の事件にしたって不可思議なところはあれども、警察が目撃者を執拗に追及しないのはさ、大いに疑問なのだ、小川はへんと鼻を鳴らす。種田の怪しい行動を指摘してやった、残余の仕業。

 くらくら、煙が昇り立つ。空調の存在は隠してる店内、古いお店だから年代物の設備をだましだまし使い続けるのかも。調理場(kitchen)、長尺対面台(counter)の内側はしげしげと見てはなかった。そういえば、料理はどこで作るのだろうか。調理場(kitchen)は手狭なように思う、左半分のさらに半分の画角には細み人がやっとのことですれ違う程度の幅に主人(master)が両手を添えてなにやらお湯だろうか、液体を注ぐ。湯気が立ち立ち、顔の辺りでぶつかり、空気に変身する。

 追加のcoffee(コーヒー)。もう一杯飲めるかしらん、首を傾げて中空管(straw)を口が迎え、煙草は灰皿で燻って出番を待つ。外は雨。降り始めて、けれど小雨。振ったりやんだり、しとしとはもう一時間ほど先だろうね。どうしてかしら、湿度がそれほどでもないぞ。何度屋根付通路(arcade)街の『ブーランジュリー』に通っているのやら、ちょくちょく麵麭(パン)の情報をこれでも仕入れているんですもの。

 身に迫る、勢い生きる人に店長は耳を傾けた。私は必死になれるのだろうか。……答えてはくれないのね。こればかりは自分で考えなさい、ということにして残りはお預け、ゆったりまったり過そうではありませんか。

「すいません」

 coffee(コーヒー)が四人席(sofa)に運ばれて。主人(master)を呼び止める。いつもの調子で大きな声で呼んでしまった。言ってしまっても後悔を咄嗟に捨てた。取り戻せない、だったら次回気をつけるまで。休憩と仕事中の声量に気をつけること、しゃべる前に予備動作(action)を義務付けるか、一拍おいたら、うん、発声を寸前抑制できるかも。

「ミルクフランをもうひとつ。それとcoffee(コーヒー)も、温かいのを、」

「かしこまりました」遠方へ発って久しい響きと所作が合致(あう)。今日は発見だらけの日、発明家にでも転身しようか。追加を忘れたわけでもごまかしでもあるまいし、肝に銘じる栄養過多は当然至極体型はこれで案外仕事着に隠れて細身(slim)なのである。

 へそを曲げた煙草が卓上(table)に吸い口(filter)は肘をおいて、つんつん出番を待つ。休憩は二本だけと決めている。追加の好物を食べた後にもう一度煙を含みたい、彼女は贅沢に思った。店長が嫌煙家だったら私は好きなものを一つ諦めていただろう。答えはまたまた返ってこなかった。間を縫って外は大雨に見舞われていた。