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追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上  1 ~小説は大人の読み物~

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カワニの分も淹れた。彼はキクラの作業台を覗き込んで天を仰ぐ。片手にまとめた荷物、空いた片方で額のに熱を測った。手のひらも体温である、内部温度の基準をなぜ頭部が担うのか、脳が収納される部位であるからか、アイラは額の熱については特に考えたこともなかった。クールダウンとはよく言ったものだが、あれとてそれほどの発熱に晒されていない証拠だろうに、熱に苦しめられる段階、その前に手を打つ、ということもまあ、いえなくもない。あるいは、状態保護のために負荷の軽減を狙う。どちらに、どれにしろ、異常をきたす深度までに熱が高まる時には、体への変調は訪れているのだし、微妙な熱の上昇を水や外気に晒される続ける手先に対しては、定点に立った観測を明らかに外れているだろう。しかし、彼女は感じる、今日はなんともおしゃべり。
 カワニは首を大げさに振る。下膨れた犬種であったらば、頬が追従した、耳もそいつは垂れていただろうか、どこかですれ違った足の短く、改良された使役に特化した犬である。思い出したペットショップだ、大通りと平行に走るこの建物から駅までの道にあった。毛並みのつやをガラス越しに整えてられる犬もいた、身だしなみは当然と言わんばかりの胸を張った面構えだったか、犬の主張はもっともだろう、人が作り出したのだ、長すぎる毛並みがもたらす汚れや感染症、病気の媒介は飼い主の義務とその犬種を買う段階で定められる。それを望む。まったく、そう、まったくだ。
「気になって来てみたら、やっぱり作業はしてるし、それに交渉まで勝手に進めちゃって。いいですかっ、僕がクライアントとの窓口ですよ。勘違いしないでくださいね。アイラさんは曲作りに専念してくれないとまた無理を承知で年中動き回るんです」
「何に対して私は間違いを犯すのでしょう」口を尖らせるキクラに尋ねてみた、おおむね回答は予測がつく。
「おべっかは使えませんからね、一度印象を悪くしたら取り返しがつかない、クライアント側がじきじきにスタジオに足を向けることだって僕が頼み込んでやっと実現を果たす。僕の苦労も少しは考えてくださいよ。打ち合わせの度ににアイラさんが事務所に顔を出してもらわなくちゃいけませんよ、いつかはって、そうなったってからじゃあもう遅いんですよう、判ってますかぁ?」
「苦労を身に置き換えた。さて、それで何か私の態度が変容する、もしくは、化学的反応で不可逆な作用が起きるのですか?」
「だからそういう屁理屈をいつまでも言ってると、僕のように噴火しちゃうんですって!」
「火山みたいに言うんですね」アイラは立ったままコーヒーを啜った。ここぞとばかり、絶好のタイミング、アイラは片手のカップをカワニに差し出す。彼が聳やかした肩で近づいてきたところに、である。
「おうっ?……これは、どうも」
 不意をつかれたキクラの態度変化。たしかに相手を敬うことは交渉の場において最低限、守られるべき両者の規約だろう。けなして侮辱、殴り合い、打ちのめした末の意思疎通は現在はもちろん、十代の間柄でさえ相手への直接的な中傷は避けられる傾向なのだ。ただし、アイラが思うに、内に秘めた本心というのは、表情や態度、それら全体を総じた「匂い」は目線に集約し表れる。匂いそのもので感じ取れることも数少ない場面ではあった、出会った過去は存在する。けれど、それらの根拠を示すことは、困難だろう。時々による組み合わせが異なるのが理由。
 それに多数の鈍った者たちには、目線とは警戒心を強める合図としてのみが抽出されて有効に働く。私を棚に上げていうが、希薄を通り越し体面に表れる感情の端々はにこちらからの仕掛けを待って、初めて少しばかり頭を出す。だから、たまに攻撃的な言葉を彼女は吐く、意識的に。そうして相手の出方や応じる微細な変調を読み取っているのだ。
 裏と表のみの性格、と彼は決め付けてはいないはずだ、はっきり私はメリハリのついた一様的な態度を取る。カワニがソファに座ったので、作業用の椅子に戻った。
「思ったんですけれどね」カワニはたこ焼きを取り出してテーブルに並べる、箸は三膳。「期限は来月、四月の頭、三週間後なのに、いやに焦ってませんかね」
「それは私も感じました。社内の決定に動きがあるのかもしれません、新車の発表を早めたい要因が浮き彫りになった。私には関係のないことです」
「だとすると、あのうわさ本当かもしれない」
 カワニは聞いて欲しそうなので、気を回した。罪を犯してはいないが、滅ぼす、誤解を招いた謝罪を込める。
「うわさ?」
「前例、類を見ないとの触れ込み、画期的な代替燃料を搭載した車が他のメーカーから売り出されんですって」たこ焼きを勧められたが、身銭を切ったカワニにまずは口をつけてもらう。