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論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 1~無料で読める投稿小説~

「そう、みたいだな。ありやっ、朱肉が乾いてる」
 種田は指差す。「引き出しに予備があります」
「そうか、そうか」
 迷いのない打音が蘇る。
「大事な時にばっかり用事ができてしまうんですね、部長は」腰に手を当てる鈴木、写真を何十枚と幼少期に取られた経験があるのだろうか、種田はおぼろげに母親が見守る撮影スタジオの風景が浮かべた。
 通常、後輩の暴走を先輩が止め、現状はただ見守るに徹する。彼女にしてみると部長の怒りを買う段階はその二乗ほどのふりきった感情と訴えに値する内容に達し、ようやく関心を示す。現状、部長の顔は書類に釘付けである。
 しかし、鈴木の言い分には少々思い返すべき、種田にとっての要素が盛り込むべきだろうに。
 不可解にして不名誉な解決が再燃のベルを鳴らす。
「アイラ・クズミ女史の意見に寄りかかった、あれは一体どのような上層部の判断と捉えてよろしいのでしょうか、私を座らせるに値する回答を聞かせてください。久しぶりの再開に抱擁は望みません。が、上司らしい中間管理職の責務を全うしていただけると、幸いです」
「種田、怒ってるのは僕だよ」と、鈴木。
「私が怒っているように見えるとすれば、明らかに態度を取り違えてます」
「どっからどう見ても、それは……。相田さーん、ポジション取られちゃいました」
「甘えるな、近づくな、そしてコーヒーを買って来い」
「ああ、私のもついでに頼む」部長は手を挙げて、自らの分を望む。種田もそれに便乗をする。
「後できっちり請求しますからねっ、ほっとにもう、人遣いが荒くって、何で僕ばっかりが……」文句と足音と遮蔽音と共に廊下に鈴木は消えた。
 入れ替わりにいかつい表情を貼り付けた事務員の女性が精算した経費を回収する、種田は未整理、睨みつける去り際の意味はこちらへの威嚇らしい、実に動物らしい。
 鈴木が去って一分ほど経過し、対面の相田は室内の陽気にやられ居眠りを始めてしまった。
 たん、たん、判が押される。
「席に着いたらどうだろうか?」と、部長が提案をする。無論、視線は合わない。
「では、腰を下ろしたら、応えてくれることを約束してください」
「巧みだな。その交渉術を日常では封印するか」
「多用は疲弊を呼び寄せます」
「臆病でもあるのかなっと」
「臆断である自らの観測の甘さはおもしろく視野を外れる」
「だてに熊田とコンビを組んでいない、真価を発揮、というところかな?」あえて応えずにいた、代わりに腰を下ろす。さっさと本題に入って欲しい、種田は姿勢正しく軽く窓際のデスクに正面を合わせた。
 室内を自由奔放、相田の寝息が飛び回る。
「第一の謎とはなんだったかな?」顔を上げる部長が尋ねた。語尾がわざとらしく上がる。
「死体出現」端的に種田は答える。犯人は捕まったとはいえ、不満が残る。承服しかねる箇所は未解決のまま、いわゆる逮捕によりそれら一まとめは覆い隠された。底の知れぬ力、いわゆる権威と上層部の関わりは根深い、熊田たちともその点では意見の一致を何度も確かめ合う。この人、果たして部長は本質とはいかに、種田は上司の腹を探った。
 緩やかに捺印に反し口の動きは活発となる、あまり器用なタイプではない。
 鈴木の帰還がリミットに思えた。部長は口を閉ざしてしまう、まったくのでたらめな直感だ。

論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 1~無料で読める投稿小説~

 汚れを取る手袋を仕舞い、冬物のコートをクリーニングに出す。来年シーズンまで店に預ける。異動の辞令が降りた時に思い出せるかどうか、取りに行く手間を避けるかもしれない。
 廃業を成し遂げるにはタイミングが課題である。預かった洋服を来期の到来そのときまで店を開け続ける義務が生じるが、その間の営業はしかし、預けたお客たちに対する不要な心配を抱かせないためには必要に駆られる。真夏にクリーニング店の前を通って、預けたコートの行方を何人が思い出すというのか。
 いつものとおり署の入り口に立つ警官に敬礼を送る。この儀式と人件費の無駄は警察機構に恨みを持つ爆弾魔の自爆テロを金属探知機手前で食い止められる程度だ。効用は低いといえる。そいつだって爆弾はポケットに収めるのだから。
 市の指定文化財に認定されるO署内の床と奏でる靴音が各所、各自歩行者の足元にて広がる。古い建物特有の寒さを歴史と引き換えにそこで働く者たちの健康を気遣うは配慮は目を瞑る。改善の見込みを彼女はあきらめる、願う労力が惜しい。
 時間は平等にそして等間隔に一秒を刻むものだ。首都を離れ休暇を終えた彼女たちにはそれぞれに仕事と生活が待ち受けていた。捜査費用に長期滞在は認められるのか、四人分の経費、これらの精算を種田が任された。年功序列という悪しき習慣である。他のものに任せるよりかは自分で片付けるに限る、効率を重視したのであれば、反論はない。それにむしろ適任は私しかいない。そういえば、マンションの更新手続きも済ませた。継続契約は要相談、と数ヶ月前のビラの記述をふと彼女は思い返す。継続月は記憶に留めるのだが、ビラの効果によるのだと誤った解釈を大家に与えただろうか、歓迎振りが大げさだった態度と茶菓子それに三種類の飲み物の選択は予想は適合していた、と見受けられるか。
 デスクには種田一人が座る、ほか三名及び、空席が常の部長は別として彼らは休憩と称する喫煙に早朝深夜を問わず、いそしむのだった。
 大家の立場から考えるに、空室よりも満室を、ただし長期の賃貸については引渡しに現状復帰が見込めない、未来を懸念するのだろう、なりきった大家なりの心境を読み取りすっぱり考えと縁を切った。
 鈴木が部屋に戻る、相田がその隣に座った。二人とも無言を貫く、時を刻む時計が主役に躍り出る。
 喧嘩をしている訳でもなく、男性特有の無言でも成立する仲、という間柄、状態である。彼らは上下関係にあるが、後輩の鈴木に関して特別気を利かせた言動は毎回ということはむしろ少なく、彼の本質的な、陽気に振舞う姿勢は気分のバロメーターにより突き動かされている、と解釈が妥当だ。考えることを失うと、こうして身近な事象にさえ関心と呼べるかは怪しいが、観測と結論をはじき出してしまう。
 忘れていた。種田はいまだに冬服を着込む、息苦しさは高温の室内が悪さの主、冬寒く夏暑い、つまり断熱効果が失われているのだ、この部署内は。まったく、そう、まったくである。悪態をつく理由は他にも排出を控えるが、公言に伴う反発たちが時間を割き兼ねないので、口はつぐむ。
「まず以って事件の解決……、と受け止めていいのやらいけないのやらで、まあ結論は導けたわけですし、ひとまず仕事は果たしたんでしょうかねぇ」蛸のようにはす向かいの鈴木は首を揺らす。整頓された彼のデスクは、刑事とは無関係な、カタカナの列立が目に付く。
「証人が生きてた、まさに動かぬ証拠だろう。死んでたら、まだ都内の滞在を延ばしてたかもしれない」向かいの相田はお腹の前で手を組む。だらしなく椅子の背にもたれ掛かる。
「しっかし、あれですよね。どうして校舎に人が閉じ込められてるって分かったんでしょうか。やっぱり考えても、どうにも検討というか、取っ掛かりが見つからなくてね」鈴木は早口にいう。多少身を起こす、彼も寄りかかるのだ。「熊田さんのあの推理、始まりの部分を教えてくれたら、僕もああやって寡黙に仕事がこなせるんだろうな」
「頭より口が先に動くお前が?かなわぬ夢だな。あきらめろ」
「だったらですよ、相田さんは熊田さんの思考をトレースできるんですか。プロのドライバーでもね、レコードラインは人それぞれ違うんです。それこそが唯一早く走れるライン。一般的なコースでの事例を挙げてます、路面の悪いコースじゃあめったに反対にはずしません」
「なんにも言ってないよ」右手を振って相田があしらう。鈴木のレース好きはこの部署の全員が知る、彼の趣味だ。
「要するに、僕が言いたいのですね……」
「完璧にラインをトレースすることは可能であっても、レースを勝つ上での利得は微々たるもの。さらに、自らのリズムを崩しかねない危険性を同時にはらむ。彼らレーサーはむしろリズムをずらすことを心がけるのだろう。マシンの性能差が顕著であるならまだしも、昨今のレースは開発費を抑える傾向が主流と聞く。エンジン性能やシャーシ部分の兼ね合いがもたらす優位性については正直、知識不足だ。近年のレースはとんと縁がないもので、意見はこのあたりで控えるとしよう」
「部長ぉ!」対面の二人が立ち上がる、種田も仕方なく先輩たちに続いた。頭を下げて彼女はいち早く席に着く。
「いろいろ積もる話もあるとは思うが、私もこれで何かと忙しい身分でっと」部長は日に当たるデスクにいそいそと腰を落ち着けると、薄手のマフラーをはずし、手をさすって、山と詰まれた未処理の書類をばったばったと判を押し処理済の下段トレーに送り込んだ。まったく文書に目を通していないか、画像記憶の処理法を多用するのかは、定かではない。後者の対文書処理に関し種田は乱用を控えている。彼女もそういった能力を有するがゆえの被害を事前に避けるべく、セーフモードを標準の設定とする。
「今日という今日はいつもの言い訳は通用しませんよう、僕らに」鈴木はデスクに詰め寄る。「大っ変だったんですよのこの一週間」

犯人特定の均衡条件、タイプA・タイプB 6~無料で読める投稿小説~

~無料で読める投稿小説~6
 連綿と観客を揺り動かす音色が途切れた。ぷっつりと。
 てんやわんや、スタッフたちが情報を怒鳴り合って交換。腹をくくり途切れた夢見心地の復旧に一丸となるという点では現時点が最高潮、といえる。停電と同時に端末の規制が解かれた、方々で端末に向かう姿が発現をする。
 ギターを担いだ人物が種田を追い越す、熊田は目を丸くした。
 シークレットゲストが到着した、あいつだったかの、思いも寄らないもっともこの場に不釣合いな人物、種田は事態の復旧を願った。さっさと仕事を済ませて解決が迫るこの場を去ってもらいたい、言葉はしかし喉に居座る。
 登場人物はステージ前に台の製作を要求する。早急に観客の目の前で製作過程を見せなさい、ためらわず直言をした。指揮を執る監督だろうか、決めかねている。普及までしばしお客を待たせておく、これがセオリーであり、小手先のフォローに慌てて飛び出した歌手たちの数々の惨敗とその後の無残なしまりの悪さを身に染みて感じてきたのだろう、経験に縛られるとは譜面どおりに指揮を執るばかりが優秀である、という錯覚。
 時刻は昼と夕方の境目、太陽がもうじき傾きを強める時刻だ。
 騒がしい。言い争いも聞こえだした。責任を擦り付ける、協議を外れた停電が慌てふためく最たる要因だろうか。
 判断を迫られる指揮官とシークレットゲスト。
 彼女は雄弁に語る、復旧前に台を作り出せたら、その上で歌を届ける。スピーカーなしでも声は届く、そもそもが聞き取ることに音は始まる、歌は興味をもたれた。多少の負担を観客に強いるのです、と。
 感化された舞台・美術スタッフが彼女の進言に共感を示す、大人数だ。迫力に指揮官は押される。
 原因不明、担当者の嘆き。スタッフが声を上げた。
 ゲストが登場する、観客は一瞬私を見定める、私が注意を引き、お客の興味を引く、集まれと言う、時間が惜しいとも、早く始めたいとも、用意された環境システムを通じた音が出ないのである、私は歌える、ここはコンサートホールでしょうか、アリーナを要する会場?いいえ、武道館でも決してない。価値とはなんでしょう、増幅した音を届ける約束を交わしましたか?フリーライブ、自由とは、料金がでしょうか、はい、解釈を柔軟に行いましょう。
 彼女は空間を支配した。
 セットが組まれる。高さおよそ三メートル、二メートル四方の小ステージ。はしごを階段に見立てる。
 熊田は端末を取る、スピーカーを通じた会話。
 鈴木の声だ、息が上がってる。
「はっ、は。見つけました、よ。三号棟のよ、四階、備品保管室のロッカーです、ふーう。生きてます、救急車は相田さんに頼んでますから、いやー、間に合った」
「ご苦労。そっちに向かう」
「はいぃ」
 熊田は言う。「種田はここで待機。演奏が終わり次第拘束だ、目を離すな」
「はい」スタッフの数人と熊田を見送る。あの年齢に達する私は軽快な足の運びを可能とするのか、随分先のくだらない心配事に思いを這わせた、無論即座に木っ端微塵、足元に投げ捨てた、押し付けて踏んでもいたか。
 目隠しの衝立、その隙間にスタッフが群がる。拍手が包む会場。
 耳を澄ませば彼女の音色が聞き取れた。邪魔者は上空の鳥ぐらいだ。
 聴かせるを越える、届けるを半ばあきらめがちに、ただし貫く信念は妙にくすぐったく胸の前に落ちる。
 装飾を見事に捨てた、誇らしく、気概はむしろ削がれた。
 たった一色を使い切るつもりだ。手がかり、手ごろな高さに降りては観客を拾う。バス、そこかしこに停留所。いちいち、発進と停止。平然と彼女は歌う、笑っているようで泣いているかといって無神経か、と問えば軽く引き締まった表情、もちろん種田の想像だ。衝立はスタッフで埋まる。
 今回ばかりは部外者の手を借りずに済みそう、種田は息を潜めると、勢力を強める彼女の声の終わりを待った。
 あきらめた、この私が?種田は憤りを帯びる。あいつにだけは頼るまいと、思って、何とか回答は避けられているが、熊田の導いたプロセスは一向に復唱が困難だった。
 またてしても、だ。
 魅入られるのは彼女を除く会場の者たち。
 よくもまあ、許せるものだ。
 かすか、楽器の音色がひんひん届く。
 研鑽を積め、更なる高みをだ。
 私を歌い手のようにその場を作り出し、出さない、出られなくても済んでしまうように。
 鳥が鳴いた。

 

帰国便 機内 瑣末な出来事と現象~無料で読める投稿小説~

君村ありさの手紙 ホテルのメモ用紙 中央下部にホテル名と建物のイラスト
「雨のちに僅か差し込み今日利ある
 赤唐檜そこのあなたは木霊して
 高波の合間に覗き菊人形
 行き縋り点と銭とは私にも
 意味を知る私は願う白くあれ
 入りの口後姿は誰ぞみる
 好の縁戯れ風と落ちるまで
 降らんとの思惑ここぞ遠き夏
 着膨れの身こそ知らせしめぐる春 行く手飾るは蕾ばかりか
 五日月姿あれども手にはなし 豆と食らいてよをあかす」
 
 手元が狂い手紙が宙を舞った。通路を駆け抜けたカワニが引き返そうとするも手で制す、彼はお腹を下す兆候を朝食後に態度で表していた。トイレに駆け込む回数はこれで三回となる。
 散らばる便箋を拾い上げる。
 磁場が狂う。めまぐるしくアイラに計算が走った。
 整頓。
 正しさが改変される、かちりあるべき場所に肩がはまった。目玉がぐるりと回転する。とんがる唇。
 引きちぎれそうなほど皮膚が、伸びた。
 嵐は去る。
 汗が引く。
 微風を感じた。首を振る扇風機と蜜に過ごす夏場に似てる。
 客室乗務員田丸ゆかを呼んだ、手を挙げて手招き。ペンギンのように彼女が接近、動きが止まりきらないうちに束ねた手紙、開いたことで一・五倍に膨らむ量を押し付けた。
 彼女は手紙の束を二度に分けて処理、アイラの目の前で広げたゴミ袋の口を固くしっかり玉に結ぶ。彼女なりの信念を示したかったようだ。数十分後に到着である。
 揺れるコーヒーを眺めるも回収されて着陸を待った。シートベルの着用を言い渡される。
 カワニが緊急事態に非礼を何度も詫びた。一度も必要はなかった、無反応を怒り、と取られてしまった。落としたのは手紙であり、絨毯に染み込むコーヒーとは異なる。
 隣のギターが景色をさえぎる。
「見るべき事柄を」、と友人は内実に働きかけた。