コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

ふむふむ納得、総じて後悔

結論。
 あの人、私が憧れにあこがれた地下室の不思議な部屋で再開を果たした人物が、世界の有様に多大な影響を与えた張本人ではないか、と思う。もちろん、人の形をしていたのだから、あるいは言葉を話し、しかも夢の世界を体現した地下空間の説明等々、現状の知識では説明が不十分に終わる。私はそのとおり、夢を見ていたのかもしれない。だって、ガラス瓶をあの人が落として、私は森に入るフェンスの前で倒れていた身柄を保護されたんだ。反論は聞こえている、騒がなくてもあなた方の心情はその後の私である。無責任に理解を示したりもしない、たぶんそうだろう、と思うだけ。違ってもいい。だって、私はあなたをありのまま受け止めるのだから。
 木々のアーチを下る、茶色く濡れた岩に張り付く葉っぱを眺めて短い橋を渡りきる。坂道を右に旋回しつつ、保育園が前方に見えた。送り迎えの車がわんさか出入り。走り出そうとする娘を一定の速度に引き止める、犬かお前は、そう背中に体内で彼女は投げかけた。
「今日ね、雪だるま作るの。いいでしょ」何体作ろうと、娘にとっては世界にひとつらしい。
 挨拶を済ませて、縁を後にする。送り迎えの九割が自家用車の送迎だ、わたしぐらいが徒歩で子供を送り届ける。無駄な話を避けつつ、来た道を下った。外からバイバイ、と送り出された。娘の声である。なるほど、彼女にして見れば、私をここまで送ったということらしい。固着した観念を素直に認めよう。川で車をやり過ごす、歩行者が優先とわかっていても、私が立ち止まる労力は少なくと橋を渡りきる時間は車のそれより長い。
 投棄された商品たちが川の流れをせき止める。その中に、ビンも見えた。
 私が割ったビンに似ている。ビンはどれも似ているか、彼女は訂正と反省の中間の言葉を捜した。今でも、私はビンだ。何もない。娘は私の所有物とは無関係だ、夫も私には含まれない。いつでも送り出せる体制を万全に備えてならば、他人を受け入れる許可を私は、私から得た。答えになっていないだろうか。家族の報告に聞こえたら、内容を取り違えてる。あなた方の世界はすべてが真実と事実で溢れかえっている、断言とは正反対の世界でしょう、これに同意してくれるなら、私の近況は自ずと手のひらで転がるはず。
 ぐにゅぐにゅ雪が、鳴く。ぽたぽた、庇から水が滴る。さんさん、雪と枝を縫って太陽が、昨日の積雪を詫びて顔を出す。上り坂を頂上で、車が一台スタックしていた。一本と一塊に分かれた手袋を顔の横に引き上げて、私はハッチバッグの出っ張ったリアを力を込めて、押した。レンタカーとルーフに積むスノーボード
 右手の通り向こうにはスキー場。視線を上げると見上げる点のような人の粒がうごめいていた。
 点。あちらにもそう見えたさ。人らしく、ぐねぐねと曲線を描き、私は坂を下りた。ずんと高い山。彼らだけが、どこから見ても、いつみても、植物だった。
                                                                        おわり

総じて後悔、ふむふむ納得

紺碧。有限に広がる空は見慣れた。私を含めた人間は得てして例外を嫌い、当たり前に引き下げた現実に生きる。
 外は雨。雨にぬれるのだって当初は喜んでシャンプーに興じたり、わざわざ濡れて自宅まで帰ったり、屋外のベンチに好んで座ったりと、それはもう大フィーバーだったのに。今となっては、笑い話。きっちり、折りたたみ傘を持ち歩くのが通例に。暴雨の翌日は折れたビニール傘がゴミ捨て場や川のほとり、看板の下などで見かける季節のようにそれは巡って、しかもすっかり世界に馴染む。
 数十年続いた紫外線の脅威・猛威に突如、終焉が寄り添った。
 詳しいことは学者先生でも解読、解明できていないらしい。現在も調査は続いている、ということらしい。オゾンホールの拡大は。意外な役者が要因だった目される、これもあくまで予測としかいえない。
 外部刺激が植物の組織を壊し始めた場合に、彼らは自らの身を守る。捕食者の体内で有害に働く内部分泌を生成し、捕食の進行を断つ。生き残る離れた組織へ空気中に放出した揮発性の物資を通じて、危険と物質生成の指令を送る。送りあった信号はほかの植物へも伝播、悪い噂みたいに世界に広まる。放出する物質には、どうやらオゾン破壊の強力な立役者がいたらしい。ただ、発信源の特定はオゾン生成の兆しが数字に現れた頃にぱったりと姿を消したようなのだ。
 植物たち。彼らが破壊物質の生成者。大まかにえば、このような答え。不平は受け付けない、だって私が導き出した答えをあなた方は要求していないのだからね。
 もっとも、植物自身がその生態を消滅させる命題に取り組んだのは事実と捉えても構わない。むしろ、私たち人類は眼中にすら引きあがっておらず、彼らの種族の中での争いに巻き込まれた。飲み込めるように解説を加えると、紫外線量の増大が植物の異常肥大、成長を引き起こして、都心部に私たちが追いやられた。国内国土の七割を植物たちによって占領された。無論、もともと私たちの土地ではないので、奪う奪われるの議論は論外。植物が増えたのであるから、酸素供給量も増えて、オゾンの生成が破壊を上回るのではないのか、学者たちの意見が過去に取り上げられていたものの、観測されたデータは拡大するホールの今後も続く肥大化を示していた。
 そこに、終わりの見えない未来に助けが舞い込んだ。私がガラス瓶を落としたあの日の、あの時だ。正確な年と日付はとっくに忘れてしまった、あの人が植物だったという事実以外はもう、思い留めたいと強く思えなかったし、その価値もない。
 私なりの予測を、これは真実とは似ても似つかない後ろ指を差される絵空事に近い発想なので、私個人がひた隠す想像であることを前もって胸に留めていてください。多少、言葉遣いという作法を覚えたのです、私も。
 キクラ・ミツキは、連れ添って歩き、人の手を引く。外は雪に埋もれた午前、鳥の鳴き声と除雪車のパワフルな前後運動が最近、屋外を牛耳ってるサウンド。大型の固く踏みしめられた圧縮の雪面を、私の連れはタイヤが作り出すへこみにはまって、腕を通じて私に引き上げられることを楽しむ。なにごとも新鮮に映るらしい。
 さて、意見を言ってしまおう。下道に出ると一列に歩かなくては対向者の進路を塞いでしまう、安穏と思想に思いをはせられる時間は今のうち、という状況なのだ。

ただただ呆然、つぎつぎ唖然 5

かちり。彼女の内部でひそやかに、機構がかみ合う。
 これまでの私を、おいてきた私を、こびりついて離れようとしがみつくこれらを、ガラス瓶に変えた。
 魔法を使った。手当たりしだい、目に付いた丁寧に色までついた多種多様な瓶をためらうことなく、白い床に叩きつける。どんどん、リズミカルに、ばりんばりん。
 瓶詰めの防護服をかち割る。未練はない。着飾った私は片手でぴょいっと。
 サリーは身軽によけた。計算済み、無礼な振る舞いだと思うなら、あなたが訊いて見なさいよ、彼女は思う。
 紫外線を浴びた無防備な人型は遠くへ放り投げる、手首のスナップをきかせた。
 待って、平等な時間でと、ミツキは願う。殴られ、戒律を守り、ドアノブをしっかり握った今日の私を真上に投げて、受け取り、右手でスローイング。ティーカップを口に運ぶ警戒心の塊を指先ではじく。小瓶は右腕で一掃、がしゃん、ばらばり、からんしゃりん。
 透明な瓶だ。何も入っていない、空っぽの容器。捨てる物、いらない概念、かりそめの私を構成した縁者のほかに捨てることを求められる?ミツキは首をかしげる
「来るわ」十メートル先、爪先立ちでサリーが言う。小声だったのに、私には聞こえてしまえた。不思議。
 猫みたいに容器を撫で回す、左右に上下をひっくり返して中をのぞいて、ふたはないから、やっぱり猫の前足よろしくかき回したり、顔は当然サイズオーバーだから、片目を凝らして覗き込んでみたり。時間がせまってきてほしい。
 来てしまえばいい、予定不調和が舞い込んでくれたらいかがだろう。未知数なのに楽し気な未来が想像できた、楽しめる自信が弾んでる。
 こねくり回して、ようやくまっさらに周回遅れの私が二度目の、いや三度目を越えたリスタートを切る。
 ゆるゆる、体は正直に、プレゼントに仕立て上げた空のビンを、賞状を手渡す名前だけの脇役はごめんだと。一言、心境を思うとおりに表現して見せようではないか。
 来るがいい、来てみろ。ミツキは立ち上がった。
 右側にあの人が漂う、とミツキは天井と床の間にビンを差し出す。
「ありがとう」現れたあの人はきれいに、そして正しく笑い、私へビンを投げつけた。

 

ただただ呆然、つぎつぎ唖然 5

「わかりきったことを尋ねるのね」
「食べたい物、考えておいて。すぐいく」
「退路は断った。短い時間を有効的な、あの人に対しては有効的ね」サリーは涼やかに確信をえぐった。「私と対等に立つための道筋は一本」
 たちどころに鼓動のピストンが早まる。選べと、奪い取れと、本能で語れと、地鳴りと同質の胡乱な叫びが遠くから、近くでは退避命令をその身を隠したおぼろげな輪郭の奴らが、代わる代わる囁きかける。
 時が迫る。こつこつ、足音を口ずさむサリーは勝ち誇ってテーブルを回っている。嫌がらせ、誘いか、これは。のってはいけない、踏み込んではならない。
 頭を抱える。激しくいやいやをするように、首を振り回した。ショートヘアーがこれ見よがしになびく。命よりも、大それた大儀名文や、位に即した誇りなんて者とはかけ離れた意思。これまで意識にすら上がっていなかった。女性として育てられて身近に勝ち得た付き合いの長い倫理が、髪との接点。また、生えてくる。わかってる、いや決断をしてるふりだ、それは。
 ミツキは、二週目にさしかかるサリーを眺める。私はこの人の頭だけを見てしまってる、頭とは何だろう、シンボル、象徴、一言で言い表せる事柄。もし目が見えていなかったら、彼女は考える。髪を切ったという事実を伝えられるのみで、なんら今後の付き合いや接触、対応に影響はしない、少なくとも私のようにじっと見つめたりは不可能であるんだ。
 答えを。あの人がやってくる。私を見つけてしまう。決めろ。