コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

アンブレラは黒く、赤く

あちこち、テンテン 7-1

肉対肉の構図がひらめいた店主は鶏肉を解凍する。十枚のモモ肉。一枚を四枚から五枚に等分、四十人前から五十人前が作り出せる計算。十分だろう。隣町の警察が捜査をしているのが気に掛かった。管轄外での捜査は縄張りを持つ警察が嫌がる行為ではないだろう…

あちこち、テンテン 6-5

「床を、床を綺麗にしてもらうよ。落書きは犯罪だっ」声が裏返る宅間。「仲の良いお友達との殴り合いの喧嘩は暴行と判断されるのかしら?両者の間には信頼が認められるわ、けれどもそれは目には見えなくて一方が認めてももう一方が否定すれば、二人は喧嘩で…

あちこち、テンテン 6-4

「生活のためにのみ生きている、息をつなぐのは苦しいことだと知っていながらも、やっぱり生活は大事か?」私の声だ、少女の口からは宅間の声が聞こえる。どうしてだ?状況を見込めない。私は話してはいなし、聞こえたのは少女の口からだ、間違うものか。音…

あちこち、テンテン 6-3

立ち上がる少女の口元が赤に染まっていた。驚きを隠せない、一歩後退する。何か動物を肉に食らいついたような口元の汚れ方。恐怖がよぎる。私は食べられてしまうのではと、宅間は左右、逃げ道を探す。少女が一歩前に左足を踏み出す。それに呼応して宅間も後…

あちこち、テンテン 6-2

頭を振る。狭い、窓口を出た。じっと座っているからだと、体を動かす。回転機構の真円のアルミ、滑り止めの凹凸。危険を知らせる黄色いランプと、食物連鎖の頂点に立つ肉食動物のイメージカラー、黒と黄色の縞々が車の出入り口を囲う。黄色の回転灯は赤色と…

あちこち、テンテン 6-1

宅間隆史は同僚を休憩に入れて立体駐車場の勤務をこなしていた。日の傾きを待つ静かな時間、人が流れて時たま、車が一台、二台と入ってくるのみ。忙しさとは無縁の生活。かつてはスーツを着こなし会社に勤め、この町へ通っていた。しかし、今といえば、比較…

あちこち、テンテン 5-3

「質問の意図がわかりかねます」店主はあからさまに不機嫌に顔を曇らせる。先ほどの言葉が伝わっていないらしい。もしくはわざと苛立たせる為の作戦か?それだったら大成功、掌握術を心得ている。侮れない。侮る?立ち向かってどうするというのだ。「答えて…

あちこち、テンテン 5-2

「パトカーが止まれば、事件でしょうし、警察の訪問で確定的です。あくまでも予想です」「あなた以外の従業員は何人です?」熊田は種田に代わり質問を続ける。「三人ですが」一店一店、周辺に同様の質問を投げかけるのか、店主は疑問を感じる。「あの、先に…

あちこち、テンテン 5-1

ハンバーグの大々的な勝利はお預けに終わった。六対四の割合の場合は継続経過に移行し、翌週に同じメニューで割合をはかり、そこで七対三の割合に分かれるとハンバーグをメニューに定期的に登場させる。また、支持が七割に達しないときは、もう一品を変えて…

あちこち、テンテン 4-3

「大丈夫ですか?」心配している声も声色で真剣さの度合いが測れる。鼻で笑う私。店員はいぶかしげに見つめる。背の高い店員、彼目当てのお客もこの店では多数。当の本人はそれに気づかぬように振舞い、羨望を受けてきた自信は外側の鋼で覆い、内部はだらし…

あちこち、テンテン 4-2

そうやって取り込まれないようにいくつの私を抹殺してきたんだろうか、仕儀は煙を吸い込み、差し入れを無理やり二口で押し込んで店に戻る。差し入れを携えた常連客は髪を切りそろえるのとセットだけであったので一時間と少しで応対が終わった。これで心おき…

あちこち、テンテン 4-1

飛び込みのお客と予約客の対応に追われ、その日は朝から休憩する暇もなく常に立ちっぱなし、三十代後半あたりから立ち仕事のきつさが身にしみて体を蝕むさまをまざまざと見せつけられている仕儀真佐子は、正午をとっくに過ぎた時刻に、十分の休憩に入った。…

あちこち、テンテン 3-4

店主が国見蘭の代わりに答えた。「許すのは誰?同年代とお客さんの世代とではまた意見は食い違うと思う。見え方、捉え方に平均は存在しない。だから僕は評価を下さない。あくまでも表には出さずにね。言葉に出さず思ってもいいだろう、しかしそれを共有する…

あちこち、テンテン 3-3

「店長が甘いから安佐がいつまでの手順を覚えようとしないんですよ」 「今日はテンパっただけで、予約のお客さんだって覚えてましたよ。四名様ですよね、蘭さんにも言われましたもん。それにジャガイモだって皮をむいて、茹でてる空いた時間、予約の下ごしら…

あちこち、テンテン 3-2

「具体的な日時はいえないよ」 「リルカさんはだってもう料理を任されています。私と年だってあまり変わらないのに、なにがいけないのですかね」 「なにがいけないと思う?」店主の問いに安佐の快活な返答が途切れる、店主は間髪いれずに続けて話す。「明確…

あちこち、テンテン 2-3

三神は身を乗り出す。窓に手をつけて地上を覗いた。傍を歩いていた店員も三神の機敏な動作と視線の先に興味津々。しかし、ウエイトレスの立場を堅守、勇んで覗くことはしなかった。 傘は異様な跳躍をみせたように、三神は思う。手を離し、上空に放り投げたの…

あちこち、テンテン 2-2

霞み目に目薬をたらす。ティッシュの代わりにナプキンで目をぬぐった。三神のほかにお客は二人、両者ともPCを広げてる。三神の席は電源が確保されていない席である。三神はバッテリィの警告を目安に席を立ち、場所を移す。次の店もしくは自宅で電源を確保…

あちこち、テンテン 2-1

小説家家業に流れ着いたのが二年前の春。時が過ぎる早さは、新鮮さのかみ締めを排除してしまう守りの人格ではないかと、感じる三神であった。ビルの二階、通りを眺める窓側の席、天井までの窓の無言の働きかけは開放感が否応なく引き出され、また歩く人々を…

あちこち、テンテン1-3

「うまくいえないのですが、こう、おいしい味を引き出すには誰かの真似をしたらいけないと思ってしまうので、レシピ本とかを見れなくて……、味を作るのが怖くなりませんか?」 「真似るべきだと僕は思うな。だって、それっておいしいから本に掲載されて、おい…

あちこち、テンテン1-2

入店の男が口を閉じるまでの間にハンバーグの作業工程を終えるには十分であった。フライパンに整形した肉が匂いを放てば、彼は腰を上げて厨房を覗き、今か今かと食事を待ちわびる。皿に盛り付けるハンバーグを最後に添えてソースをかける。店主が料理を運び…

アンブレラは黒く、赤く プロローグ1-2

オープン前のキッチン。狭い厨房で今日のランチを仕込む。時刻は午前九時。外はいつの間にやら秋の気配を匂わせていた。朝晩は上着を羽織る日々に突入。そういえば、声変わりの虫の声も足元から聞こえていたのだ。薄手の手袋をはめ、合い挽き肉を粘り気が出…

あちこち、テンテン 1-1

「あのう、ランチタイムはもう終わりましたよね?」店頭の黒板に営業時間ははっきりと明記してあるし、飛び込んで店に現れた汗だくのジャケット姿の男性もその自覚は持っている言い回しであった。腑に落ちない、なぜ理解しているならわざわざ店に入り、尋ね…

アンブレラは黒く、赤く プロローグ1-1

「ここに決めます」 僕は建物に出会った刹那、心を奪われた。都会の狭小ビルの一階、大通りから一本中に入った路面店舗。ピザ屋の名残は、張り出したガラス窓からお手製の石釜。通りに立つと作業の様子が見て取れる。しかし、僕が惹かれたのは、ここの部分で…