コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

白い封筒とカラフルな便箋

エピローグ

二週間後。 スタジオに雑誌が配送された、バイク便である。事務所に届き、アイラの所在地へ送られたのだ。 モノクロで一回り小さな彼女がいつになくこれまでを失った顔で笑っていた。 過去の話。 離れたギターに詫びを入れて、次の楽曲製作に取り掛かる。 デ…

エピローグ

笑みがこぼれた、めずらしく私が笑う。 彼らにも伝わる、この場では彼らは疑いようもなく私である。 見えている、生きているが、現物はたまに。しかも、初見の演奏は無自覚に私の本能を呼び覚ましてくれる、感じ取ってくれるだろうか、どれだけが、反応を示…

エピローグ

目配せ。もっとも右端の私、その左斜め後方に長髪のギタリスト、ならびにもう一人ギタリストは短髪を固める、ベースのクールガイはサングラスで武装、軽く顎を引き、どんと構えるドラムスは大き目のメガネフレームを直して、スティックをくるくる回す。 カウ…

エピローグ

ブースの外で腕を組み、見守る人物たちの総数は圧倒的に作業に忙しい者たちを上回る。 「ニホンゴ、ワカラナイネ。アナタ、ハ、ウタエ」ギターの男に肩を叩かれる。 「オーケー」十分だ、ネイティブの日本人だって会話の文法はめちゃくちゃなのだ、伝わる。…

エピローグ

十一月中旬、うらぶれる空が雪を降らせた翌日。アイラ・クズミが借りるスタジオにて生放送の収録が行われた、カワニが私の承諾を半ば強制的に勝ち取った二週間後である。海外からの出演者を、アイラ自身はまったく知らない。周囲の反応は彼女とは正反対に緊…

単一な黒、内面はカラフル 2

希少な露出を誤って受け取る人が大多数、ただし、うん、観客たちは常にふるいにかけられているのは事実だ、こちらは続けるべき。 次の仕事が待つ。東京は暖かいだろう、海洋性の温暖な気候が冬でも比較的高い気温を保ってくれる。 大雪に見舞われる都会の風…

単一な黒、内面はカラフル 2

もっとも二件目が一件目を補完し、その他がその二つを更に補ってしまった。既に打つ手なし、警察にも言ったことだ。そう、これ以上の詮索は不可能であり、無意味なのだ。警察たちの脳裏には連続殺人がびっしりとこびりついて離れないだろう。 喉元を過ぎる液…

単一な黒、内面はカラフル 2

アナウンス、意図的に感情を殺す機械的な声が車内を包む。しかし、降りる仕度に取り掛かる乗客の姿は見られなかった。新幹線は遠距離を短時間で移動する手段、近距離ならば時間をかけた低料金を選ぶはず。 時間と距離の関係性が気にかかった。 アイラは音楽…

単一な黒、内面はカラフル 2

ええ、もうお分かりでしょう、データの観測がたまたま事件と対象を捉える、その点において共有性を帯びた、単にそれだけのことです。納得がいかないようですけれど、私は警察でも探偵でも、まして小説に登場する人物の明快な回答は持ち合わせない、そればか…

単一な黒、内面はカラフル 2

「お前の自腹が増えるだけだぞ」不破はアイラにきりっとした表情を向けた。「あなたは事件にまったく関心を寄せるそぶりを見せない態度だった、情報量は我々に劣る。後学のためにぜひおしえていだきたい、どこで事件の全容を悟ったのです?」変調を思わせる…

単一な黒、内面はカラフル 2

不破が頷いて言った。土井の見解には興味がないらしい。「アイラさんが言われた内容と事実は、うん、たしかに符合します」 「けど、不破さん。管理人の阿倍の身辺は綺麗なもんで、不審な口座の送金もメールやネットの書き込みも犯行を疑う要件なんてこれっぽ…

単一な黒、内面はカラフル 2

「では、一件目はやはり管理人の仕業ですか?」細い目で不破が尋ねる。 「どちらに転んでしまっても、良かった」 「どちらって、あの」土井が今度はきく。「自作自演以外の状況があるとでも?」 「本当に犯人と鉢合わせた」アイラは軽く微笑んだ、必死な彼ら…

単一な黒、内面はカラフル 2

コーヒーは有難かった、アイラは素直に受け取る、これの代金分を喋ると思えばいいか、彼女は小さじ一杯の量を口に踏むと、備え付けのホルダーにおき、快諾、リクエストに応えた。 「一件目の事件それのみだと解決に導く糸口は視認できませんでした。二件目の…

単一な黒、内面はカラフル 2

「紫に始まり、青、緑、黄色、オレンジ、そして赤。これらの色は重なると、黒を作り出す。すべての色が吸収され、反射した、目に見える色が黒。要するに、最後の赤色とは、自分は色の一つであり全体を現す色でもある、との主張が読み取れる」 「うーんん、い…

単一な黒、内面はカラフル 2

佐賀県警の刑事土井が腰を浮かせると共に驚きの声を張り上げる。即座に隣の刑事不破に頭を叩かれ、席に沈む。車内は多少、ざわついた程度で再び微振動と眠りを誘う走行音に主導権を快く手渡した。土井はそっと音量を抑えてきいた。丸い手を口元に添える。 「…

単一な黒、内面はカラフル 2

いうなれば、受け継がれるうなぎのタレが我々。つまり、昨日の私はもう今日には異なる別の私によって書き換えられている。体と呼ばれる枠が歳をとり、内部の人格について規則的な改変が絶えず行われ、無意識にあるいは意識的に、『自分』を忘れてしまわない…

単一な黒、内面はカラフル 2

「あいまいな機能の働きと記憶を取っ掛かりに、当事者はアイラ・クズミに介在するべく、この作用を逆手に取った。アイラはその性質上、瑣末な事情に靡かない、クールな人格を持つ。通常みられる代わり栄えのしない接触では当事者の存在は忘れ去る、ゆえにラ…

単一な黒、内面はカラフル 1

不本意。はい、前の方とアイラさん両方の願いを叶えるつもりが、当てが外れたのです。落ち込む必要性に囚われるな、現実に存在を認められはしないの、チャンネルを変えなさい。真実に姿を似せた寄り添いは、身に降りかかる事態の処理に目を塞ぎ、途方にくれ…

単一な黒、内面はカラフル 1

本来この席に座る人物は私を除いた人物があてはまる、未来というのは可変しても未来、つぶさに予測と見比べ、違いを見つけることをあなた方に求めます、これは酷な期待ですかね。手紙は私が手渡しで受け取った。はい、つまり私の前に手紙を書いた人物がいた…

単一な黒、内面はカラフル 1

『あなた方へは労力に対する敬意をお辞儀で支払う。もっとも、私が捕まるつもりでこの手紙をしたためたことと勘違いされるのは、不本意極まりない。予測はしていたけれど、現実に起こる可能性は万に一つの割合に思っていた、まあ、そのわずかばかり、すずめ…

赤が染色、変色 11

演奏を止めた観客が引き起こした活動の説明はあえて、伝えずに継続を保つ。 見回す観客の両目に一セットずつ、同意を取った。 その間に、女性は席に座り、ペットボトルの水を与えられる。青ざめた頬の血色が少しだけ戻っていた。 時計をちらり、限られた時間…

赤が染色、変色 11

彼女は咄嗟にこの場を取りまとめる手段を二つ考え出せた、二つの提案を吟味する間にもう二つの提案を考え出す。 「血が噴出したようにモニターには映ってたが、うーん」ステージ袖のカワニは大きく呟く、声を伸ばす。カメのように首が稼働域の限界に達する。…

赤が染色、変色 11

人垣が割れる。演奏は止めざるを得なかった。旋律が戦慄に姿を変えてしまった、手に負えない、それは規定に反する。一過性、一度きりが価値を生み出し、人は対価を支払う。 正面やや左の一角に空間が形成される、観客は数人倒れてる、悲鳴は途切れて、ざわめ…

赤が染色、変色 10

もう少しよ、あと数メートル。見えてる?私のことが、呼んでよ?私の顔、聞こえる?私の歓声。 邪魔だからどいてくれないかしら、本当にアイラをあの人を必要としてるのはこの私。私が彼女だったんだもの、これ以上の理由があって堪るもんですか。 手を引か…

赤が染色、変色 9

アイラがバラードをもうじき歌いきる。 余韻。 酔いしれて長くてもいけない、恥ずかしがって短命ではもっと失礼。 そろそろ。 言葉を切るまで、二十二秒。 染み付いた脳内のカウントが始まった。手がけたあらゆる楽曲を忘れられるものだろうか、人は、大多数…

赤が染色、変色 9

感触は良好、味わいは豊か、感度は抜群に、彩りも滑らか、ひと通り走り抜ける。 熱膨張。気圧の低下かもしれない。展望塔は港を見下ろす高所だった。 うねりの内部に動かない一員を見つける。 届いていない、はたまた好みの曲に出会えていないのか、それとも…

赤が染色、変色 8

「これでいいのかしら」、呟く。 彼女は私に触れてくれた、だから私に色が生まれた。発色を知り、明度がもたらされた。出発はあなた。そう、結論は一つの答えに達したの。受け入れてもらえるだろうか、不安が尽きない。見えているだろうか、あの人に私が。 …

赤が染色、変色 8

彼女の番、係員が端末の提示を求めた、もちろん、私は優雅に端末を手渡す。五インチの画面を係員が緑色の二重丸の機械にかざす、こちらには見えないタブレットを眺め、本人確認の承認をしているだろう。向きを変えて渡される端末に妙な親切心を彼女は抱いた…

赤が染色、変色 8

足元の水溜りをよけて車を縫う、小雨が斜めに肌を刺す屋外は午後六時二十分、白色光の外灯を目印にすっぽりと黒が包む空間に私だけが離れた。ほとんどのお客は会場内に待機している。動きに逆らうのって大変、久しぶりにアイラを見つけた東京の満員電車まで…

赤が染色、変色 7

「もう、まもなくです。よろしくおねがいします」別のスタッフ、インカムをつけたスタッフに言われる。カワニからギターを受け取る、音響スタッフからわざわざカワニが掠め取ったらしい。この役目が重要には思えないが、彼にしてみれば、抱える歌手を鼓舞す…