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ご自由に閲覧を。小説です。「EXPLANATION(かいしゃく)と規則(rule)」

小説

45 EXPLANATION(かいしゃく) と 規則(rule)

、半ばあきらめかけた地下道をひた走り一体全体明日への活力など一日、正確を期すというのなら、早朝六時起床と目覚ましの警報(alarm)を思い出してくれたまえ。朝に弱い、お寝坊さん、布団をかぶり夢の中でもう一波乱を期待する現実逃避に乖離のこれみよがし(on parade)、まさに回転木馬(merry-go-round)にあれよあれよと堂々同じ景色をぐるぐる、延々枯渇を忘れた狭間でうつらうつらの境地をどうにかこうにか目指すぐらいが関の山さ。

 まばらで人はところどころ、距離をとってすれ違うので三人に一人から匂いたつ酒精(alcohol)の臭気は微塵どころか、地下道の空調設備(system)、その仕組みが男は気に掛かった。先月、家を建てると決めた。妻が提案したのである。一人娘の入学を期にいっそのこと、いつかは家を買うんだし、という要望を受け入れる決心を固めるには約一ヶ月か、いろいろ上司、先輩たち先達の苦労と失敗、責務と退路を立たれた男の末路などを懇切丁寧、というのだろうか、半ばあきらめや愚痴の類を虚勢を張って聞きつつ、建物の適正な価格、立地条件と近隣の住環境、平日、深夜帯の騒音に警戒、まだまだ掘り出せばいくらでも心配の原石はザックざく手に余るほどだった。抱えきれる分を選び取る、苦労と長期間の熟考はこの二点の処理、いや私自身の納得に費やされてた。空湿整調機(air conditoner)設置の判断は決めかねている。ぬらぬら足元の照りと浮かぶ。

 あいつは長椅子(sofa)でじっと私の帰りを待つ、今日は吉報(big news)があることを事前に、昼食に出る自席(desk)で連絡を入れていた。あえてだ、妻は詳細を強請るような、駄々をこねる、手に負えずに悪戦苦闘の日々の象徴は控えた。いつもは娘の精神年齢に合わせた態度で出迎え、娘が生まれてこの方は家庭に向けられる妻のすべての行動要因は、優先順位を明確に娘、自分、家、私に犬のような主従関係を身勝手に取り決めた。昔はもっとおしとやかで従順で、受け答えは私の意志を確認終えて、やっと取り掛かる。だから、掃除機が壊れた時に彼女はまだ着れる半袖(t-shirt)を雑巾に下ろし、高層型集合住宅(mansion)一階の共益部分、廃品回収の網の中からどっさりと新聞紙の束をえっちらおっちら十二階に担ぎ上げ、そうまでして私の帰宅は清潔な居間(living)の空気と床が似合うのだし、疲弊した体躯に精神は非常に無垢(naive)で鋭敏な(sensitive)反応を示すの、とまで言わしめ、昭和の時代か、もっと前の大正、明治期あたりで箒と塵取りを掃除の軸に据えた時代回帰の主婦になりきる。また、お手製の弁当のこの時期には持たされていた。夏場は傷みやすい食品は極力避けて弁当に忍ばせたり、必ずくだもの(fruits)の密閉容器(tupper)が鮮やかな緑色と白の格子柄の風呂敷(napkin)で弁当に重なり小亀のように包まれる。箸は包みの四隅を外れたそれらの中間を斜めにズバット切り裂いてはかばんの中で今まさにかたことかたんことん、と陽気に踊る。弁当は唯一私に許された愛情の名残りだ。小学校に上がった娘へのお手製の弁当のついで、片手間に仕方なく、食べたいのであれば、という眼光鋭い、およそ早朝の台所(kitchen)で向けられる視線とは正反対の他人行儀で私も機嫌を損ねた不手際の在り処を無意識に探した。それ以来、明確に家庭の中にカースト制度を認めたのは。

 商品陳列用飾り窓(show window)の展示物(display)、流行の人型二頭身獣(character)が踊る。ただし、暗がり。入れ替わるのはいつかな、男は皮肉を人形に意地悪く子供に圧力をかける大人そのものを演じる。気分が優れずにもやもや鬱積の溜まる状態が他人をそれも無抵抗で圧倒的な体力と経験差に言葉が口をつくんだろうな。女子高生相手に、嫌悪感を抱いて罵倒する奴はやはり相手を値踏み、下見、そう反撃に転じる可能性が極力想像を離れる対象を選ぶんだ。

 まったく、何を考えているのやら。男は酒に酔った女性が足早に脇を駆け抜ける姿を目で追った。自分が乗り込む最終列車はあと二分後の十一時四十五分に乗降平台(platform)を出てしまうんだがどうにも足が言うことを利いてくれない、と思い込むのだった。

 肩が跳ねた。肩甲骨周辺が背後、斜め下から前方の上部に向かって表出する怒りその前に私は男は別の景色に釘付けとなった。

 見上げる天井にうごめく影に見入った。そこに月がぽっかりと十五夜に望むかのように、首の角度は遥か上空、雨余の月を這い出る天真爛漫なまっすぐな黄色に動きが止まる。呪いが解けて石化が一時的に解除されて、さあ、この時間を有効に利用するには、あれをして、これをして、いいやそれよりも、と突然に身に起きた情報量の多さに圧倒されずに、頭上の、戦慄におののく、私をどうか、なにとぞ、祈ったのはこれがはじめて、だから、お願いだ、早く、誰か、あの人を、人かも定かであってたまるか、人となりが今にもこの言葉を考え付く刹那二だって、あれよあれよと、体躯の一部位(part)がそれこそ、窓(window)越しで人に着られる完成を待つ着せ替え人形みたいに、関節(joint)が磁石で取り付けているのだろうさ、間違いどころか、一枚の強化ガラス越しに繰り広げられているではないか。

 どうしたものか、乗車はあきらめた。私を見て、一人の女性が前方で息を整えてる。

 盲目。

 屋外と室内を当然のごとく当たり前にそれ以上以下の価値はこれっぽっちも意識を外れて、いつもじっと何遍見ても汚れすらふき取らずに、角の、隅の蜘蛛の巣に不潔と嫌悪感を見事に言ってのける表情は作れ手しまうこの余裕。

 黒い液体がドットを描く。

 ポタリ、ドッポリ、だだら、だらり、始め弱く勢いが増した。

 水管(hose)でまいた血液が頭上の透明な板を、これでもかと、場面(scene)を刻む。

 あれほど簡単に切れるものだろうか。

 薄皮一枚が前腕と五本の指をかろうじてつなぎとめるも、

 落ちた。

 生き物が落ちた。物とは異なる、まるで口がそこについてしまえばしゃべりだしそうな、誰かの一部、愛着を感じられた。

 口腔内にたまった唾を音を鳴らして飲み込む。前の女性に気づいて欲しかったのかもしれない、意外と冷静な自分を男は改め自らの解釈に訂正を加えた。

 破壊的な音楽思想にのっとる正当な歌声を髣髴とさせた。女性が叫び倒したのだ。事切れた、女性は床に崩れ落ちた。

 ドシャリ。音が遅れて届く、光の速さをまざまざ見せ付ける科学の良い実験教材の雷鳴と鳴動が室内、それもこの地下道では適用外に等しい。音の出所……、男はそっと残り一分の低い可能性にかけて、嫌々ながらしかし、先は既に後を引く選択肢見事あっけなく背後の桟橋がきれい見事に川原に落ちていた。

 そろりと眉を上げたら一気呵成、首の角度を強めたのだ。

 吐しゃ物が喉の這い上がった。口元を両手で押さえ排出を防ぐ。鼻腔を貫く酸性の粘液が味覚と嗅覚をこれでもかと果敢に飛び込み、男の大半を支配下に収めた。

 ただ、視覚は彼の意識下。

 目をそらすが突如眼前に上空、目の上に、この世のものとは思えない、現実無視の微笑みはliving doll(生人形)を見せ付けるのだから、当然の反応といえば、死体を見慣れた警察関係者、医者、葬儀社、殺し屋等等であっても、手順を逸脱し虚を着く登場に腰を抜かさずに両の足でしかもひざの震えを跳ね除ける意思は実に強固であるといえてしまう。

 職人芸(a work of art)。作り物と勘違いをしてしまいかねない。一瞬遅れてこの場にいたらば、あるいは絵画展の会場、美術館でもって、特別な催し物で持って会場中央の創作品を見上げ、各自が人形の身勝手に思い通りに読み取ったはずだ。それほど、地下の明かりがほのかに当たる離れた首と胴体の句の字に捻じ曲がった、折れ曲がる接合部の離れた距離が絶妙に思えた。 

 すっかり、匂いは消え去っていた。美しい、とさえ思えた。

 どす黒い血と鮮血とが混ざり合ってるのだ。

 血が見たくなった。私の体内に流れる血たちよ、血どもよ、流れ出してくれ、ためらいなく思ってしまった。命が尽きることと相当に思えた。人形にとってはあれが生命。命を失い、形となる。商品陳列用飾り窓(show window)の熊が笑っていた。こっちに来いよと、魅惑の笑みを浮かべる。

 目を閉じた。奈落の底ちぐはぐ、天の上にはびこる。天地無用があっさり破られたらしい。

 しかしならが、じんわりとまぶたに、赤が粘りを帯び従え同心円状流れ広がる。

 呼ばれた。

 遠くで声が聞こえた。

 小人が叫んでいるみたいだった。

 瞼を上げたら、強化硝子(acrly glass)を貫く極小範囲のびかびか照らす光源で以って私を補足しているではないか。

 なるほど、男は肩を落とした。

 赤は内部の赤か、と。