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小説は大人の読み物です 「する」と「できない」の襲来 4の続き

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「世間を振り向かせる俗受け行為(performance)。この店の集客数をあなたの店が上回った、と公言したい。行列の長さを通行人に見せ付ける。店舗存続にとれよう手段、理解には及びますが、これは動かぬ証拠、脅迫の罪に問われます」店長は小川に書類を返して訪問者にやんわりとその行動を正した。

「利己的で現実的、しかし理知的ではあります」潤んだ瞳が訴える。「何をしでかすか私は想像がつく。この店が明日も年代物のお姿を拝めるか約束しかねますの。 お店のためなのですよ、なるほど不本意でしょう、違和感だらけでしょうがそこはぐっと堪えてどうか、どうか、この私大座ことに免じて今日一日昼食(lunch)時で構いませんので目にも留まらぬ間(うち)突発的に引き起こった障害(trouble)を装い、店を閉めていただきたい!」

 大座ことは入り口前の幾何学模様の絨毯の上膝を揃えたかと思うと、合わせた瞳は隠れ床に額が着いた。

「横暴にもほどがあります」小川は肩をそびやかす。

 くぐもった大座ことの返答。「不可能とは決して口にすることをわたくしは、その許可を与えられずにおります。店に勤めたばかりの苦悩、退職するべきだ、意見はごもっとも。けれど、長の理念を誰もが知る世の中を、この目で確かめるまで引き下がってたまるものか!」口調が熱を帯びた、連動、体が起き上がる。「選んでほしいのですよ、既存か新進を」

「疑問があります」店長は澄まして言う、訪問者の退出が流れる、少々現実が遅れをとったか。「なぜあなたはチョウという方(もの)の目標(めあて)を『ない』を使って否定をしないのでしょう。抗うのですよね不可能を、厭(きら)うのですから当然不合理は正さなくてどうしてあなたの押し付けがまかり通る」

「すばらしい」輝かせた両目はすでに乾いていた。大座ことは忙しく爪先立ちに胸の前出港の悲しみを堪える見送りの女性のよう重ねた小さなこぶしを握っている。細かく震えるよう、首を振った。「ああ、なんて私は浅はかだったのかしら。おっしゃるとおりです、はい。私から制約の本旨を投げかけるなどとは微塵も、考えにすら上げてしまえずにいましたの、ほほっ」左の甲が口元へ肘が八十度に曲がる、力の抜けた手首。「そちらのお嬢さん、私動きますので、よろしいかしら?」

「そのまんま、扉(door)を出るんだったら許します」

「いえいえ、お手元の契約書を返していただきたいのです。お恥ずかしいわ、誰かに見られでもしましたらば、わたしく顔から火が吹き出そうですもの」

 取り出された書類が引き裂かれた。

するりと小川安佐の手元を抜けた書類入れ(file)、店主は躊躇わずに真っ二つに紙を裁断した。「これでいかがでしょう。書類入れ(file)はお返しします」

「いいえ、いいえ、なにをおっしゃるので、結構ですよ。こちらでご使用くださいな。何かと早朝にお見苦しいところをお見せしてしまって、今更回収など罰の当たる。わたくしと思って切り刻むなり火で炙るなり、利用法はお任せします。それではこの場に不釣合いな不届き者はこの辺でお暇をさせていただきます。ごきげんよう

 しなやかに首を傾けて大座ことの訪問は幕を閉じた。粘っこい雰囲気が扉(door)の近辺にぬめぬめと居座っている。小川が「塩をまいてやりましょう」、というも掃除をするのは客間(hall)係りの国見蘭であるからと、僕は苛立ちをぶつけたい彼女をどうにか昼食(lunch)の手伝いに借り出すことでその気を逸らせた。

 制限を加える、か。