コンテナガレージ

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あいまいな「大丈夫」では物足りない。はっきり「許す」がききたくて 3

 飛び出した洋食店『エザキマニン』へ引き返すも夕食帯時(dinner time)が始まった。呼びかける機会は過ぎた。食欲を無理に呼び起こす種田は手早くハヤシライスを平らげ長尺対面台(counter)に積む皿越しに念を送るが、二度目の妨害、小川という従業員の遮りに遭い、寸断された。

 『PL』店主日本正の妻の居所とタイヨウ食品退社後の生活遍歴それと事務の職務履歴を再度洗い直すそれらを署に待機する鈴木へ依頼した。出入り口脇より並ぶお客は呼ばれて店内に。乗り気とは言いがたい返事に持て余す暇を埋める喜びが隠れきれず溢れる、一方的な終話で知れた。しまった、彼女は舌打ちする。高山秋帆の転校先は調べ終えたはず、聞きそびれた。一手遅れた、報告時にまとめて尋ねる。

 さて、種田は切り替える。情報提供をいたずらに待ってなど、時刻割を組む、通(どお)りと変事を思案した。とりあえずS川通りを北に車道脇の駐車区域(parking)に停めた車に乗り込んだ。変向回握(handle)に手をかけてもう一本、日に希少な二度の通話、それに呼び出しとは、気が引ける。普段の彼女は応答に徹するか、瑣末な情報(ここでは個別具体的な巷の情報を指す)を探出(さがしだ)す。積極的に指先を動かす趣味と対極にいる、あえてでもなく、まして無理からということは万に一つの可能性すら皆無である。

「種田です」

「番号はどこで聞いた、熊田か?」

「部長が私に掛けた業務連絡の番号(number)、その一つを選んだのです」

「登録番号からの着信は拒否しているはずだったが、設定を誤ったかな」

「お聞きしたいことがあります、目撃者についてです」種田はおどけた口調を一蹴した。こちらは手詰まりにひたと引き寄せられる、このままだと私たちの手をだ、事件は離れてしまう。というのは種田たちが抱える事件は警察組織の内輪揉め、派閥抗争に内部分裂や諸官庁・公共機関との良質な関係などを理由に、解決に迫る目前であろうが度々捜査の打ち切りを命じられていた。改めて事件を振り返る。凄惨かつ大胆な所業なれど他人を殺める動機・殺意につき真当(まっとう)、これにおいて適宜なる文言があろうか、彼女は再燃、感じた。熊田の低音を怖がる思念と消える。

「目撃者に家を貸出す大家にもう一度話を聞いてくれ」

「お話は直接伺っています」

「それが当人を証明、してはないだろう?大家と思しき人物の見方は人の数存在する」

「鈴木さんの調べです」

「確実か?」

「調べたのは鈴木さんです」

「私は忙しい。以上だ」部長は端末をあてがう耳を換えたようだ、雑音が混じる。「ああ、それと次に掛けてもつながる期待は持たないでくれ」

 またもや一方的に切られた。内燃機関(engine)をかけ車体を本線に移す。情報を隠しているなら借家の価値を維持する防衛策が事故物件の情報開示義務を嫌った。慨然に思えるが倫理に背く個人の処罰はまたの機会になにがよりもこれは部長直々の命だ、高山明弘の借家へと向かうさ、探し物はこれかとあの人が隠す張本人で私たちは鼻を利かす遭難救助犬に間柄のいえる。矢面に立たず背後より支えるは良い側へ過言(いいすぎ)、空席目立つ机と名ばかりの役職は厄介者を束ねる者の取りうる最良の、身を隠す手段は異論を唱える私や先輩たちに対し、いざ遭遇したらば、大仰に言ってのけるだろう。

 異様な数日来、傘は歩道の開らく、新規出店先が筆touch(づかい)白文字で描かれている。物量で押すのか。前方強化硝子(フロントガラス)が覆われる。

 通り雨がまたもや気分を変え地上へ降りてきた。