コンテナガレージ

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あいまいな「大丈夫」では物足りない。はっきり「許す」が訊きたくて 9

「店(うち)に用というと店長への面会ですか?」

「入院患者みたいに言われますね」小川の言い回しは店主の気難しさを発言の根本とする。

「食事とそれ以外の訪問目的とでは店長、応対を見事にはっきり分けますから」小川は体の水滴を手拭き(ハンカチ)で払う。そしてそれとなく訪問の訳を聞き出す。「失礼ですけど、個人的な用事ではありませんよね?」

「表向きは公務、本質は私事情(private)です」

「店(うち)に来るお客さんの大半、いえいえ八割は食事という毛皮を頭に被るんです。ああ、私は咎めたりしませんよ店長は靡かないですし」勝手知ったる主君の性質、小川の余裕が鼻につく、発言に含まれる誤解はしかし影響を及ぼさない。個人な用事とはいっても個人的好意を抱くわけではないのだ。

「忌憚のない事件の感想が目的です」種田の言葉遣いはぶれが少なく、小川はくだけた表現を多用する。年上が敬語を使うずれた構図である。

「報道では犯人は逮捕されたと聞きました。中年の男性、男性、男性、あれ?」小川は高い声を出す。「なんだぁこのひっかかり。刑事さん、報道機関(マスコミ)に流す犯人の情報を操って、その過剰な詮索だったり過度な追跡を誘発する個人情報はですよ、小出しに公表することも可能なんでしょうか。昨日の今日ですから、覚えていないってことはありなくて、お客さんが日中あれこれ噂してたのに……」

「逮捕がもたらす効果を有益とみなした、詳細を省いてでも詮索はいずれ収まる」種田は間欠窓拭(wiper)を緩めた、弱まる雨脚。空調(エアコン)を作動させる。「脅威は去った、駅の通過・利用は安全です、通常通り生活に支障は出ません。警察の役割とは脅威の排除と安全確保の明示、仕事は全うした。加えて、おそらくですが、近々S駅の利用に関る事業が発表される。あるいは……特別な利用者に向けた報告でしょうか」

「警察って案外複雑なんですね。正義を志す人を選抜して、選ぶ人もまた選ぶ必要があるのに」

「ごもっともです」

「いえ、そんなぁ、偉そうな発言でした。撤回します」

「川沿い、橋がかかる行合乗車(bas)停の前で何をされていたのでしょうか?」存在を消し掛けた小川へ尋ねた。

「HM駅で電車が止まってしまって、人身事故ですよ。この渋滞もそうです」どうりで車が溢れている訳だ。「隣のHO駅に向う道すがら貸切自動車(taxi)でも止まってくれやしないかと、駅に常駐してた地域一帯を走る貸切自動車(taxi)は予約客を乗せてしまって駅には来ない。だったら国道に出て個人貸切自動車(taxi)を捕まえようじゃないかって。料金よりも時間が大事だって、店長が乗車を許してくれたもんですからね、大胆にも心もとない財布と相談しつつ貸切自動車(taxi)に手を振ってた。見境をなくしたとか、増水する川に飛び込むのは勘違い、車体の形状(フォルム)と車色(body color)は直線の道路とこの雨脚では見分けはつきませんもん。向こうから見つけてくれれば、そういう腹積もりでした」

 よく喋る。店主の困惑振りが目に見えるようだ。

「そうです!」強着狭帯(Magic Tape)がもし剥離さえ静寂を保てていたら、小川は張り付いた背中のmessenger bag(メッセンジャーバッグ)から水筒を取り出した。生命を得た湯気が揺れる。「どうぞ、大丈夫です。お店のcoffee(コーヒー)ですから、刑事さんcoffee(コーヒー)お好きでしたもんね。おっと勘違いはいけませんよ。私はcoffee(コーヒー)で料金をチャラにしようってちゃちな奴とは思ってほしくありませんですよ」

「何もいってません」

「店長みたいに言うんですね。ふーん、なるほど、私はそうかそうか、うなぁーん……」

 手渡された魔法瓶の蓋を、傾ける。都合よく車は速度を落とし、種田は制動板(break pedal)に足の裏を置く。

 coffee(コーヒー)豆を店に運ぶ役目を仰せつかった、失態を省みながら小川は淡々と数分、状況説明をした。

「それはそうと」熱を保ったcoffee(コーヒー)を直接飲み口に宛がう、魔法瓶が角度をつける。「『PL』が昨日からお休みしてるんですよね」彼女は道路脇の緑と橙色(orange)の傘を傍観。「休日は店(うち)と同じく日曜だったのに、しかも全店舗が休みっていうのはねえ、なんだか色褪せると急激に古めかしいですね、あの傘」

「当分店は開かない」

「どうしてです?」

「回答は店に着いて、それから話します」種田はさらりと告げる。「二度手間は面倒ですから」

『不確かな記憶の整理』、その言葉は声にならなかった。的を射た発言だ、信じられもする、確証性も高い。真実味を帯びてる。事実だろうし本心を語っていたに違いはない。認めざるを得ない、これがどうにも引っ掛かりを覚え後を引く。魚の骨が喉に居座るようにいくら白米を飲みこもうと一向に意思は固く、内壁に突き刺さったまま。一晩中寝ずに時を振り返った。あれは偶然ではなかった見させられていたとでも、ここでいつも振り出しに戻る。だから、意を決して非常識な一般市民の役柄を勝ち取ったのではないか、。後戻りは同乗者の獲得で、寝息を立てる彼女によって退路を断っただろうな。助手席側へ拓けた、片寄せ合う平野部は家々の明かりが灯る、雨は一時的に気分を晴れやかに気持ちを整えていた。