コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

wとg ※1~小説は大人の読み物です~

今日から新しい物語りです。
「最初に申し上げたいのは、不本意、ということです。いずれにしても選択肢に最良の手はなかった、そのことを念頭に、会見に耳を傾けてくだされば、と思います。さて、それでは私、アイラ・クズミがニューヨーク行きの飛行機に搭乗に至る運びを、まず説明するべきでしょう。後続に控える質問にあらかじめ応えた、そのように思ってください」アイラ・クズミはK国際空港の一室を借り切る会見に望む、長机を隔てる室内の三分の二は記者たちで埋め尽くされる。事前の申し出を彼らは従順に、その厳守に応じたのだろうか、彼女はひそかに写真の一枚に撮られる程度ならば、いつもならはねつける撮影にも寛容だった。不測の事態が引き起こったのだ、代償にしては浅い傷だろう。机ごと蹴り飛ばしてやりたい、衝動を無理くり起こし込める。いつもだ、いつも本流をそれる。流れが支流にとって代われる。声を届けていられれば、曲を紡いでいられるように、と今日を刻むのに。まったく、大いに、まったくな世界。アイラは軽々息を吐いた、死別、感情を切り離す。とにかくだ、彼女は再び声を張った。「始まりは、隔週で開催するライブハウスの利用停止がことの発端です。先月の第四週目に予定されていた公演に待ったがかかった。年間の使用契約を結んでいましたので、利用ができない、という報告を受けた時は非常に不条理な現実、この理解に苦しみました。設備等の不備の一言ですべてを片付けるつもりだったらしいです、限られた時間、締め切りを抱える皆さんは理解が容易いことでしょう。実質一日半の時間内に百五十名キャパを要する会場を探す出す、難易度の高い必要性に駆られた。都内です。場所は予定の会場から近い方がいい、半径一キロ圏内が望ましい、とはいえ結局、近場では代替施設を見つけることは叶わなかった。その時点では、単に会場近くが週末という利用頻度の高い時節、曜日と重なった、これらが要因と捉えてました。ええ、お察しの通り、話の運びから、現在の私の状況を加味すると、不可解な状況が意図的に盛り込まれていたのです。半日をスタッフ総出、私も久しぶりに固定電話の受話器を耳に当てました、かなり懐かしい感触、残しておくべきでしょうね、あのホールド感は。公衆電話の姿も見られなくなりましたけれど、災害時、電源を必要としない連絡ツールとしての価値をやはり残すことが求められますね。はい、無関係な発言でした、話を戻します。都内各所のライブハウス、想定のキャパを下回る施設も連絡の対象に入れました、背に腹は替えられない、当初の一日二公演を三公演に開演時間の変更を、お客に頭を下げてやむなくこちらの事情を受け入れてもらう方法も模索していた。けれど、どこもいっぱい、明後日の予定はすべて先約で埋まっていた。考えられない事態ともいえない、ありうることだとも思います。ただし、ライブハウスに足を運ぶ客層はどうでしょうか、音と共に日々を過ごす人たちです。そういった場所へ頻繁ではないにしろ、自主的にあるいは誘いによって腰を上げる人物がどれほど存在しているか、という怪しげな議題が行く手を阻む。私はよく存じ上げませんが、都内及び関東において海外の有名歌手のライブが同日に開催を予定されていたようです。一度当人の体調不良により公演が延期された振替公演に多くの人が詰め掛ける様子は都内で生活する私にまで情報が生活上の各所で耳に届いた。それほど期待をされ大勢が詰め掛けたことは誰しもが無論ここに詰め掛ける皆さんは私よりもそういった世情に鋭敏にアンテナを張る、賑わいを想像してみてください。どうしてしょうか?……私はますます、理解に苦しんでしまう。音を楽しむ娯楽性を週末の貴重な休息日に充てる人種がこれほどまでに都内にあるいはその近県に息を潜めて生活をしているのでしょうか、チケットが手に入らなかったのかもしれません、しかしパブリックビューイング、という映画館のスクリーンにコンサート映像をライブにて配信を試みた、これもコンサートの翌日に不用意に耳に届いた世間の会話です」