コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 3 駐車場

「十分後に本番ですから、五分が限界ですよ」喉をこちらもわざと鳴らして差し入れの饅頭を詰め込んだ、十二個入りの豆大福が二つ行方をくらます楕円、木製の黄土色のテーブル。
「構いません。ご一緒しても?」、と熊田。やはりどことなく腰が低い。
「どうぞ、どうぞ。座っても減りませんから。なんなら私が用意したわけでもない、差し入れをつまんでください。そっちの刑事さんも」
 一人用のソファに山本西條が自ら腰を上げて移動した、空いた山本西條の席に種田と熊田が仰々しいmiyakoの歓待を示す左手の導きに、彼女の対面に腰を吸えた。コケのような緑のソファの反発に腰が負けじと存在を押し付ける。
 ブースの裏手が楽屋の位置、ウスバカゲロウがドアに描かれていた、内側扉は無地のオフホワイト。情報を定期的に処分する、種田はあとで取り出す際の手間隙を嫌う。
 山本西條は居合わせた理由を次のように語る、熊田が視線を送って彼女自身の意思で口を開いた、問いかけの文言は発してはいなく、自らの弁明は聞かれる前に言ったほうが説得が増すのでは、と彼女なりの心理が働いた想像がつく。
 たまたま、入る楽屋を間違ったそうだ。顔見知りであるから、挨拶のひとつでもと腰を下ろして、そこに私たちが現れた、という。信憑性はとても低く偶然にしては出来すぎてる、種田の直感的に嘘を見抜いた。ぼくやきみという彼女の口癖が聞かれなかったことも要因。
 テーブルの豆大福に視線が集まる。四人が互いに気配を探る。
「機内の演奏はもちろん、お二人は聴かれましたね」忘れていた挨拶を思い出したように済ませて、熊田が主導権を握った、止まった時が解凍した。こういった出方を決めかねる、速度を殺さずこちらに向かって歩く相手とぶつからずにすれ違う左右へ踏み出す判断力、行動力は目を見張るものがある、種田は上司の行動を見習った。
 山本西條は別の収録予定でこの場にいる。楽屋を間違えたらしい。三十分後に収録が始まる、表通りに面するブースの他にもう一箇所ブースの存在が示唆されたが、種田たちは未確認だった。テーブルに置かれるスケジュールには番組名とmiyakoの文字、出演時間の午後一時から三時を囲う。今日の放送は生放送ではあるが、遅れてお詫びを申し上げたた局とは別のラジオ局である。午後の帯で放送される生放送は種田と同年代の歌手にしては比較的落ち着いた仕事のようにも思う、前回の訪問したラジオ局に比して建物の規模は小さい、人気の低迷が叫ばれる歌手にとってはふさわしい場所なのかどうか、偏った見方は拭いきれない、種田は世間一般の感覚とのズレを当人が自覚するのだから、当然それよりも大きくあるいは小さい幅で埋もれる市民とは感覚を異にしてしまう。深夜帯にレギュラーパーソナリティのスケジュール調整、代役に一度限りの出演かもしくは、収録形式の決まった曜日と時間帯の長くて一時間の放送が彼女が思う一般的な売れっ子の姿である。
「アメリカ到着を待つ間中、睨まれっぱなしでいられる自信がある人っていないでしょう?」おちょくった口調である。ただ、緊張が窺える、若干ひきつるmiyakoの顔。本番前が、その理由だろう。
「山本さんは?」
「そうね。仕方なかった、アメリカに渡れただけでも御の字。同業者だから、無視を決め込む方が難しいんじゃない。積極的に聴いてる態度は……出せませんけどね」
「偵察だと思われるから」
「詮索好きな人は多いわ。ぼくは目の仇にされる性質だから慣れてはいる。けど、好んで敵を迎え入れるってほど、ウェルカムでもないわけよ、わかります?」染みついた口調、若者の言葉を多用し続けた成れの果て、その好例である。
「客層が重なるとは思えませんが、これについては?」
「誰が何を言ってるかが気になる。それによって、人は考えを変える」種田が言った。
「彼女のことは気にせずに」熊田はさらりと部下の発言をこの場から押し流す。「演奏後から到着まで、機内の行動をできる限り細かく知りたいのですが」
「特別なことをしていたと思う?帽子をかぶってたせいで頭は痒くなるわ、窓際だから水分補給だって控えた。これでも結構気を使うの」miyakoが言う。次に山本西條が答えた。
「ライブが終わったあとは、そうだなぁ、食事を摂って映画を少し見て……それからね、眠ったのは。身動きが取りにくい窓際の席だったこともかなり影響したんでしょうね、いつもは雑誌なんか読んでるのかな」山本西條は片目を無意味につぶった。そして波を打つみたい、突き上げるがごとく彼女は地面を這い出してぽつりと付け加える。「……うとうと眠って目を覚ましたんだ、隣が起きてる間にと空席を確かめて一回トイレに立った、ついでに歯磨きと顔も洗ったかな。それからはずっーと翌朝まで寝てた。文句あります?」