コンテナガレージ

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消灯後一時間 ハイグレードエコノミーフロア

沈み込む座席の振動が伝わった。
 インターバルを挟むアイラの噛み砕いた言葉が続く。「だが、価値は以前のあなたによって作られた、継続性という不透明な生き物が背後でひっそり支えていた事実、これが如実に浮き彫りになる。流行や目にする機会の多さ、という因子が単に音楽を聴くお客に曲を手に取らせていた。宣伝の一部を活動が担うのです。他に求める音楽を調べる労力を億劫がる人たちが買っていた、それは裏を返すとあなたの価値は露出度の高さに比例した傾向が見受けられ、音楽性やあなた自身の魅力などの内面的、精神的な価値観と異なる点で辛うじて買われていた、といえるでしょう。残酷な表現です。訊かれたので答えた、それまでのこと、私の個人的な見解でもありません、極力至極客観的な考えを述べたつもり。口調がきつい、と感じたのならば、私の意見は除外されている、と見なしてよい。断定的な意見は誰しもが、懐疑的になり、不透明なる自尊心を傷けられたと思い込む。直視を避け続けたそちら側の結果ですからね、まあその事実すらも意識に上げようとしない、だからいつまでも腹を立て、現状を嘆く」
 断線しかけたので、アイラは終止形でピリオドを打った。思い当たる節に気がつけたことは唯一の救いかもしれない、背中を見送る趣味はないので、彼女は次の訪問者に何を告げようか、もう一人の自分が考えに取り組み始めたことを少しばかり嘆いた。
 薄い新書をなぞって吐いた言葉、数時間前に読み通した薄い経済書の内容は噛み砕かれて口をついたか、機内の暇つぶしにとカワニが用意した数冊を空港に向かう移動者で読み終えてしまった。なんとも味気なく、けれどあしらう知識には向いていたらしい。それに入れ替わり立ち代り、という辞書で覚えた言葉が身に置き換わったので、収穫と、捉えておこう。
 予言は的中した。
 ミュージシャンは、朝方にやって来た。