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追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 5

「十秒前でーす」放送がはじまる。
「手首の痛み止めに頭痛薬を服用した、違いますか?」熊田は山本西條に尋ねた。
 目線が種田たちへ送られた。瞳に熱がこもる、赤。オレンジに傾く、朱色だ。笑っているようで泣いている、単純に置き換えられた喜怒哀楽の代表的な感情の隙間に居たはずの、名前を失った感情が、浮かぶ
 ♪~
「……さあ、始まりました。今日はゲストが特別な人、匿名希望で、なんとぼくも乗ってたあの飛行機の同乗者の方にお越しいただきました。改めてよろしくお願いします」
「こちらこそ」
「鈴木さん、でよろしいですね?」
「はい。藤原でも斉藤でもかまいません」
「面白い人だぁ、鈴木さん、来週も来れます?」
「話す理由があるのなら、足を運びます」
「それって、ぼくがですよ、きみが聞きたがってる例の質問にぼくが答えなかったらってことですか?」
「生放送で答えて欲しいとは一言も。できれば、二人だけの場所でお聞きしたい」
「いやだあ。鈴木さん、それってデートの誘いに取られますよ。ぼくは独身なので、いいですけれど、結婚されてどのくらいですか?」
「私は独身です」
「いやあだぁ」
「ええ、嫌ですよ。答える義務はないように思いますから」
「シャイなんですよね、鈴木さんは」
「いいえ。個人情報は特定される、これを前提とした行動を近頃では軽く扱う傾向が見られる。どこで何をした、過去のどの時間に、誰と何をどういった環境で。画像やその人物が公に顔をさらす、あなたのような職業であると、特定の時間にはこの放送局で仕事をこなす、その後自宅に帰り今日を報告をしようものなら、自宅までのおおよその距離が知れる。車か電車か自転車か徒歩か。私が匿名を希望したのはそういった理由に基づきます」
「けっ……、鈴木さんってかなりおしゃべりなんですね、ははは、ちょっとびっくり。もう、ずるいじゃありませんか、ぼくに隠してたんですね、しゃべれるのに」
 ブースの外が騒がしい、言い争う声がかすかに聞こえる。種田は音を立てずに椅子を回転させる。
「あらあ、今度は黙っちゃいました。おっと、そうですねここでリクエストにでもお答えしましょうか、今日は変則的に進みます。東京都にお住まいの、こ、れ、は、ペンネーム山本山さんからのリクエストで、最近の子は知ってんのかな、まあいいや、アイラ・クズミ"wとg"」