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JFK国際空港内 控え室 ~ミステリー小説~

「一つ」アイラは指を立てる。「特定すべき証拠が見つかっている。二つ、死体発見の一報を受けたあなた方は空港で私たちの搭乗機を迎える時間内に確からしい証拠、あるいは確証に近い状況証拠を集め、検証を以って逮捕に踏み切る予定であった。三つ、これは予測ですが、該当人物は別件にてそれらしい証拠、犯人らしき人物像と似通った手段を取る犯行、その履歴があなた方の管轄に記録されていた」
「あなたが望むならいつでも我々はあなたを歓迎しますよ、実に聡明だ」
「賞賛は結構です。それより、その若い男性を拘束しない理由が気にかかります。私にかまける時間があるということは、彼の拘束を引き延ばしに利用をしているのではないのでしょうね。自分だけ後に膨大で無益な取調べを受けた、それが公の場で公開されては沽券と威信にかかわる。貿易関係に悪影響を与えかねない、輸入車の量を引き下げる方針が加速するでしょうから」
「時勢にも当然精通している。いやはや、警察としてますます引き抜きたい才能ですよ、それは」
 睨みを利かせた。
 捜査官は咳払い。居住まいを正すアクションは万国、二国であるが共通するらしい。
「年齢がそぐわない。特殊メイクを真っ先に疑ったものの手詰まりで若作りの証拠は見当たらず。身長五フィート三インチ以上の該当者は三名、うち二名は若干の年齢差と太りすぎの体格。どちらも日本の警察官です」
「警察だから犯罪に手を染めない、とはいいませんよね?」
汚職、横領、暴力、押収品の受け流し、数え上げたらきりがない。あなたの国とは規模が違う。警察官には試験に合格した者を採用する、神ではなく、あくまで人なのです」捜査官は座りなおした。
 上司だろうか、背後のドアが開いて呼ばれて捜査官は席を立つ。てきぱきとせっかちな身のこなし、数分で彼は戻った。通訳は終始無言だった、聞き逃がした箇所のチェックし追加分を手元の用紙に書き入れる。用紙の全景は角度的に望めない、通訳の手の動きから想像したのである。
「言い忘れていましたよ」通訳に話し始めの合図、目配せを送った捜査官はコーヒーを携える。「客室乗務員たちに義務付ける、搭乗前の機内のチェックはその大半を一人で行うそうです。荷物棚は着陸後の忘れ物のチェックには再点検をするそうですが、搭乗前は半開きの確認のみで、中を調べることはない」
「背の高い若者との接点は?」
「頼まれたそうです、日本の警察に」
「保安員ですか?」
「何でもご存知ですね、話が早い」
「いえ、知っていることを告げているまで」
「民間人の採用を段階的に試す、試用期間にくしくも事件と抵触した。その若者はアクシデントを装った訓練だと捉えたらしいですよ、ぎりぎり辻褄は合います。航行を支障をきたさない程度のアクシデントは起こすようには伝えてあった」
「保安員など搭乗はしていない、彼個人が乗る」
「どこの国の警察も白状だ。僕らもいつ切り捨てられるのやら」
「身の上話は結構です。時間が惜しい」
「これはこれは。ぶしつけですがね、アメリカで何をされるのです?」
「あなたが長時間拘束される給与と引き換えの労働、仕事です」
「これはいい」捜査官は笑う、大きな口、横に広がる。「私はすっかりあなたのファンになりましたよ」
「これまでは違った」
「娘が夢中で。あの放送の余波は今も続いてます」
 あの放送とは、先月アメリカのバンドと行ったセッションの模様を生放送で全世界に放映したのである。