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犯人特定の均衡条件、タイプA・タイプB 5~無料で読めるミステリー小説~

「彼の成り立ちは戦後の復興期に事業を起こし、歴史が動き出しただろう?資本主義のベースを工場機械の製造とその機械となる材料、素材の加工だ、世界での生き残りにはまず体力の増強が求められた。生活が潤うと人は次のステージを目指す、まだまだ列強大国と肩を並べるまでとはいかないからな、そこへ彼は目をつけた、大衆車の製造だよ。先見の明に長けていた彼は国から資金提供受ける、発展に必要不可欠であると、認められたんだな。国が法律をそこで作り出してしまった、経営方針を定める権利を持つ出資比率以下でしか彼の資本を獲得してはならない、と」
「あれは数年前に法案が消滅しただろう、自由競争にはそぐわないって」
「ああ、だからその穴を"世界の巨人"と提携することで補うのさ。信念とは裏腹に。救いを見出すとすれば、彼がこの国の巨人と手を組まなかったことは評価に値する。まあ組めないというのが現実だろう、今度こそ独占に抵触する。海外にマーケットを広げれば、まだまだ余白があり巨大な一塊に捉えられてもだ、利益を独占するには至らず、ということさ」
「それじゃあ、国との関係は消えてる。起因には成り得ない」
「国が輸入量の規制を緩めるとしたら、つまり世界の巨人をこの国に入国させる間口を広く取ったとしたらどうだ」
「あおりを受けるのは彼だって同じだろう」
「彼は頑なに契約を結ぶ偏った嗜好性を求めるユーザーを抱える。巨人とは住む世界は地上であっても、高低さが生じてるのさ。高層ビルの窓、眼下の景色を目覚めに眺めたい者と周囲と隔絶した分け入った山奥のガレージで工作にいそしむ者とでは価値観の違いは明瞭だ。巨人の助けを請い、旧友をも間接的に援助する」
「クワバラ、クワラバ」
「お経か?」
「恐怖に出くわすと口にするんだよ、この国では」
「呪いの類か。まったく、不思議な国だ」
「そうそう油を売ってもいられんのだ、行くぞ」
「なぜ、油なんだ?」
「燃え尽きてしまうような些細なことにかまけているから、じゃないのか」
「収集に費やす労力と即時完売のあっけなさ、この対比かもしれないぞ」
 遠ざかる二つの声。彼らは実に明快に物事の理を言い当てていた。
 そう。 
 アイラの中でかなり前に答えが出た問題にこうして色が塗られた。けれど、下書きの線を絵の具の色はその囲いをはみ出す。踊り、色が線を飛び越える、不規則にただただ従順に思いのまま色が白と黒の色調に追加された。
 ええ。
 誤った認識だったのかもしれない、彼女は真摯に受け止める。あれは私の思い過ごしで、仕掛けにまんまと騙されてしまい、ここまで来てしまった。だが、騙されなければ、正解にたどり着くこともあるいはなかったように思える。振り返る要素を残していた、とも思えるからだ。
 喫煙室が一気に空く。どうやらパーティーが始まるらしい。人が両開きのドアに吸い込まれる、給仕係、またはフロア係が私を見やった。入室を希望ならば、ドアは開けていますよ、あなたが通過するまでに。首を振った。ねじるように。無言をわかる人で良かった、猫のように首を傾げないで良かった。あれは単なる仕草、言葉を当てはめたのは私たちの道理。利口な犬を買う主人が利口では必ずしもないように、大層な美術品を所有するからといってその人物が究極の理解者であるはずは、当然ありはしないのだ。音楽も然り、相手に届き解釈は自由でよろしい。