君村ありさの手紙 ホテルのメモ用紙 中央下部にホテル名と建物のイラスト
「雨のちに僅か差し込み今日利ある
赤唐檜そこのあなたは木霊して
高波の合間に覗き菊人形
行き縋り点と銭とは私にも
意味を知る私は願う白くあれ
入りの口後姿は誰ぞみる
好の縁戯れ風と落ちるまで
降らんとの思惑ここぞ遠き夏
着膨れの身こそ知らせしめぐる春 行く手飾るは蕾ばかりか
五日月姿あれども手にはなし 豆と食らいてよをあかす」
手元が狂い手紙が宙を舞った。通路を駆け抜けたカワニが引き返そうとするも手で制す、彼はお腹を下す兆候を朝食後に態度で表していた。トイレに駆け込む回数はこれで三回となる。
散らばる便箋を拾い上げる。
磁場が狂う。めまぐるしくアイラに計算が走った。
整頓。
正しさが改変される、かちりあるべき場所に肩がはまった。目玉がぐるりと回転する。とんがる唇。
引きちぎれそうなほど皮膚が、伸びた。
嵐は去る。
汗が引く。
微風を感じた。首を振る扇風機と蜜に過ごす夏場に似てる。
客室乗務員田丸ゆかを呼んだ、手を挙げて手招き。ペンギンのように彼女が接近、動きが止まりきらないうちに束ねた手紙、開いたことで一・五倍に膨らむ量を押し付けた。
彼女は手紙の束を二度に分けて処理、アイラの目の前で広げたゴミ袋の口を固くしっかり玉に結ぶ。彼女なりの信念を示したかったようだ。数十分後に到着である。
揺れるコーヒーを眺めるも回収されて着陸を待った。シートベルの着用を言い渡される。
カワニが緊急事態に非礼を何度も詫びた。一度も必要はなかった、無反応を怒り、と取られてしまった。落としたのは手紙であり、絨毯に染み込むコーヒーとは異なる。
隣のギターが景色をさえぎる。
「見るべき事柄を」、と友人は内実に働きかけた。