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犯人特定の均衡条件、タイプA・タイプB 6~無料で読める投稿小説~

~無料で読める投稿小説~6
 連綿と観客を揺り動かす音色が途切れた。ぷっつりと。
 てんやわんや、スタッフたちが情報を怒鳴り合って交換。腹をくくり途切れた夢見心地の復旧に一丸となるという点では現時点が最高潮、といえる。停電と同時に端末の規制が解かれた、方々で端末に向かう姿が発現をする。
 ギターを担いだ人物が種田を追い越す、熊田は目を丸くした。
 シークレットゲストが到着した、あいつだったかの、思いも寄らないもっともこの場に不釣合いな人物、種田は事態の復旧を願った。さっさと仕事を済ませて解決が迫るこの場を去ってもらいたい、言葉はしかし喉に居座る。
 登場人物はステージ前に台の製作を要求する。早急に観客の目の前で製作過程を見せなさい、ためらわず直言をした。指揮を執る監督だろうか、決めかねている。普及までしばしお客を待たせておく、これがセオリーであり、小手先のフォローに慌てて飛び出した歌手たちの数々の惨敗とその後の無残なしまりの悪さを身に染みて感じてきたのだろう、経験に縛られるとは譜面どおりに指揮を執るばかりが優秀である、という錯覚。
 時刻は昼と夕方の境目、太陽がもうじき傾きを強める時刻だ。
 騒がしい。言い争いも聞こえだした。責任を擦り付ける、協議を外れた停電が慌てふためく最たる要因だろうか。
 判断を迫られる指揮官とシークレットゲスト。
 彼女は雄弁に語る、復旧前に台を作り出せたら、その上で歌を届ける。スピーカーなしでも声は届く、そもそもが聞き取ることに音は始まる、歌は興味をもたれた。多少の負担を観客に強いるのです、と。
 感化された舞台・美術スタッフが彼女の進言に共感を示す、大人数だ。迫力に指揮官は押される。
 原因不明、担当者の嘆き。スタッフが声を上げた。
 ゲストが登場する、観客は一瞬私を見定める、私が注意を引き、お客の興味を引く、集まれと言う、時間が惜しいとも、早く始めたいとも、用意された環境システムを通じた音が出ないのである、私は歌える、ここはコンサートホールでしょうか、アリーナを要する会場?いいえ、武道館でも決してない。価値とはなんでしょう、増幅した音を届ける約束を交わしましたか?フリーライブ、自由とは、料金がでしょうか、はい、解釈を柔軟に行いましょう。
 彼女は空間を支配した。
 セットが組まれる。高さおよそ三メートル、二メートル四方の小ステージ。はしごを階段に見立てる。
 熊田は端末を取る、スピーカーを通じた会話。
 鈴木の声だ、息が上がってる。
「はっ、は。見つけました、よ。三号棟のよ、四階、備品保管室のロッカーです、ふーう。生きてます、救急車は相田さんに頼んでますから、いやー、間に合った」
「ご苦労。そっちに向かう」
「はいぃ」
 熊田は言う。「種田はここで待機。演奏が終わり次第拘束だ、目を離すな」
「はい」スタッフの数人と熊田を見送る。あの年齢に達する私は軽快な足の運びを可能とするのか、随分先のくだらない心配事に思いを這わせた、無論即座に木っ端微塵、足元に投げ捨てた、押し付けて踏んでもいたか。
 目隠しの衝立、その隙間にスタッフが群がる。拍手が包む会場。
 耳を澄ませば彼女の音色が聞き取れた。邪魔者は上空の鳥ぐらいだ。
 聴かせるを越える、届けるを半ばあきらめがちに、ただし貫く信念は妙にくすぐったく胸の前に落ちる。
 装飾を見事に捨てた、誇らしく、気概はむしろ削がれた。
 たった一色を使い切るつもりだ。手がかり、手ごろな高さに降りては観客を拾う。バス、そこかしこに停留所。いちいち、発進と停止。平然と彼女は歌う、笑っているようで泣いているかといって無神経か、と問えば軽く引き締まった表情、もちろん種田の想像だ。衝立はスタッフで埋まる。
 今回ばかりは部外者の手を借りずに済みそう、種田は息を潜めると、勢力を強める彼女の声の終わりを待った。
 あきらめた、この私が?種田は憤りを帯びる。あいつにだけは頼るまいと、思って、何とか回答は避けられているが、熊田の導いたプロセスは一向に復唱が困難だった。
 またてしても、だ。
 魅入られるのは彼女を除く会場の者たち。
 よくもまあ、許せるものだ。
 かすか、楽器の音色がひんひん届く。
 研鑽を積め、更なる高みをだ。
 私を歌い手のようにその場を作り出し、出さない、出られなくても済んでしまうように。
 鳥が鳴いた。