コンテナガレージ

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論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 1~無料で読める投稿小説~

「フロアの荷物棚にそれはあった。機内に持ち込んだ一本とは別の予備のギター、搭乗前預けたギターは急遽出番が生じた荷物棚に収まる一本。もう、私が何を言うべきかは予測できるだろう」部長はそこで言葉を切ってしまう。それどころか、会話まで止めた。呼びかけには応じず、ひたすら書類に判を押す。
 他のフロアの客室乗務員たちの証言に真実を告げることで、正当性を与えてしまった。種田は頭をかきむしる。要するにだ、フロアへ運び込まれる予備のギターと同様のもの、ギターケースの形という名の死体が、客室内の荷物棚に用意されていた。荷物棚はフロアを前後に中央の二つが長い仕切りを配した作りでギターの保管に都合よく適する。搭乗前、客室乗務員たちはアイラ・クズミのギターが運ばれた、という認識を持つ。ギターはもしかすると台車によって運ばれたかもしれない、落下は破損に繋がり賠償金を支払ってもらう、脅しをかければ丁寧に運ぶ方法を取ると読んだ。二本、予備のギターが運ばれた。ハイグレードエコノミーに客室乗務員は席をはずしていたか、たまたま不在であった、いや、予備のギターは二本預かるのだ、と認めてしまえる。ギターの本数など尋ねてはいなかった。だがしかし、死体を持ち上げるとなると数人の腕力を必要とする。死体のように重い、上げるに一苦労だった、ギターケースの重量に関する証言は……、一つの該当箇所も見当たらない。となると、それを持ち上げるにはギターケースとして運ばれた死体は軽量さを必然的に求められる。つまりは、死体は軽量化に富んでいなくては。
 種田は視線を真横に走らせる、室内の映像など見えているものか、視界に過去を展開、記憶をたどる。アイラ・クズミの証言を探す。時系列が手っ取り早いか、一ヶ月前の帰国を呼び出す。


 <四月 第二週 二十八日 K国際空港>
 発言者アイラ・クズミ
 致命傷などの外傷を探したが発見には至らず。
 画像の撮影を指示。
 毛布。
 包まれた死体、遺体。
 荷物棚からの落下。
 扉の開閉に不具合あり。
 カワニ、大谷奈緒がクッション代わり、死体は彼らに覆いかぶさる。
 白い装束。帽子、マスク、衣服、靴。
 覗く、触れる、死。
 要因の調査。
 肌を露出、外傷を調べた。
 素直に曲がる、曲がった関節を体感。
 
 外形と音質が密接に絡む音。ギターが不意に表れる。内部、空洞。
 死体が人を模した外形であったら、人の内部・表面組織、いや骨格に至るまでを人工的なパーツに作り変えたとしたら……、持ち上げる作業は一人で十分賄え、他人の詮索や印象に残る行動を回避できてしまう……。あり得ない。いやそれを確かめる術は、入れ替わった死体に対面を果たす無益な行動力と規律違反を突きつける。理知的とは言い難い駆り立てる行動だ。わかっている、だが、いいや、何も、そんなことは、いいえ、嫌だ、いけない、確かめるんだ、不毛、前進だ、浅はか、臆病者、稚拙、巧緻、馬鹿ね、そうやって腕組みを気取るのか、だったら尋ねたらいいわ、ここで面前で縋りなさいよ、上司に。過ちは私であったと、啜り喚き、醜態を涙を体液をたらし、流し、見せつけ、目で追う指の隙間から相手の動向を見定め、要求を僅かでもその可能性とやらに縋るがいい。はしたないだろう、明日も私はここを訪れ席に着く。ああ、無関心だろう、だが同僚たちとの関係性はこれまでとは異なる作用、働きが待ち受けるのだ、その労力たるや……考えるまでも言うことすら憚られる考えに上げても。そう、いい子、いい子、いい子。
 鈴木が戻る、相田が入れ替わりに鈴木のコーヒーを持って席をはずす。眠気を覚ます効用を喫煙に期待する、継続する捜査がもたらす疲れが抜け切れていないと見える。考えを補完する私。普段定時に部署に顔を出す上司の熊田が遅れていた。もしかすると喫煙所に先に姿を見せた、という可能性もあるにはあるか、種田は解釈を改める。
 喉を潤す。きっちり代金を鈴木に手渡す、律儀ではない、受け取りを拒む態度はそちらの管轄。私にも守りに徹する、抗っては、犯してはいけない領域が確固として存在するのだ。目で訴えた、怒りのくすぶりが残留していたことが功を奏したらしい、客観性と対照的、かけ離れた個人的観測である。
 二口目を傾ける。
 汗がかすか、対表面に浮き出た。