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論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 2~無料で読める投稿小説~

 トレーの高さは可変式。不ぞろいな捺印済みの書類をどしどしとお構いなしに部長の右手は送る。灰皿と袖の接触は絶妙な距離が保たれる、対物処理の間隔機能は非常に優秀。空間を把握する能力に長じた人物はおよそその他の領域にも高い能力を発揮する、という種田の経験的側面が顔を出す。客観性には欠ける。例外を除いた能力差はその大半が能力の開花、不適切な使用法に起因するのだから。
 部長は表出を拒む押さえつける能力を、仕様用途を、どこへ何に向けるのか、種田の考察は数分ほど事件解明の質問とその検証を逸れた。
 おとなしい。
 席に腰を下ろすなり鈴木は止まらぬ独り言をしゃべり続けたが、部長と種田が一向に食指を示す反応や、かすかなそぶりすらを見せなかったため対面の人物に課せられた行動であるかのように彼は、すやすやとバトンをつなぎ無言、まぶたの遮蔽からすんなり眠りに落ちていた。脱力仕切った腕と首は実に無邪気な鈴木の性格が表れる。相田は腕を組んで眠る、睡眠時の弛緩は疲れの回復度合いに影響をどれほど及ぼすのか、種田自身はまだ二十代の前半ということもあり実証によって得られたデータの価値は少ないと目算、検証は控えた。
 微糖の缶コーヒーの効果としか思えない。目が冴えてきた。種田は再び、作業に没頭する部長に失礼を承知で質問をぶつけた。作業を妨げる行為そのものに対する非礼ではない、それらしい回答を抱えた解説の求めを指す。
「総合すると、死体はアメリカ当局の手に渡り、偽りの検死報告がなされた、そう解釈をしていまします」
「解釈を矯正はしていないよ。折り返し、折り返し」部長は呟く。トレーの残量を彼は言うのだ。
「客室乗務員たちが真実を述べた」部長はタバコを消すついでに忘れていたことを言伝。ブラインドの光と影の演出を絵画のように眺める、種田の目はそれら全体を捉える。「大前提に従うとだ、空のケースが荷物棚に残された。乗客を下ろした最終点検に見つかっただろう。が、君らの耳に入るセンセーショナルな話題に発展することもなく収まった。ケースの引き渡しはアイラ・クズミたちの連絡先、滞在先、帰りの便のもろもろ一切を空港関係者が掌握していたはずであり、接客を担当した二名の客室乗務員は、ふう、アフターフォローを徹底するだろう。あれだけの事件、当人たちに非がなかったとはいえ、より良い旅とは言い難い」部長は半分ほどを飲み干す。ロング缶ならではの飲みっぷり、部長の好みを鈴木は知るのか。「どうしてだろうか。はっきりと疑問を解消する答えは、うん、ケースに現れていた」
「もったいぶらずに説明を」種田はきりりと引き締めた部長の表情を切って捨てる、上司の押し付ける態度へあからさま、軽蔑のまなざしを向けた。一般的な企業ではありえない態度に思える。とはいえ、客観的に自らの観測は行えているつもりの種田である。それでも部長の態度といえば、干渉などお構いなしに、平静さを保つ、いや保持という意識すらもててはない。むしろ、こちらが過ちを犯すのだ、と誤認を誘う。
「楽器を保護するケースは空港内で貸し出しを行うそうだ、一般の利用客でも手続きを踏むと大きさの制限内では当日の利用が可能、規定を超える楽器について追加料金を支払えば目的地に運べる。角は銀色、面積の広い外装部分は黒い革。種類は限られる、製造元が少ないのだろう。アイラ・クズミが所持する予備のギターを収めたケースと空港の貸し出し保護のケースはそっくり、大きさの違いはあるにはあるがね」
「だから、どうなのでしょう」
「つまりだよ」部長は次の一本に火をつける。「似たようなケース、間違いやすいケースをアイラ・クズミの忘れ物ではなくて航空会社の所有物である、そう判断をできたのだろうか」
「回収されたケースは航空会社の所有物だった……、空港で貸し出されていた、物だった」
 やられたっ!
 種田はこぶしを打ちうける。鈴木は無反応だ、ありがたい。