コンテナガレージ

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論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 2~無料で読める投稿小説~

残り少ない部長の滞在、種田は質問を続けた。
「どうぞ、続きを。あの方は見回りに夢中、害はありません」
「搭乗前に彼女たちと顔を合わせた、喫煙室でアイラ・クズミは呼びかけられた、と話していたんだ」直接尋ねたのか、部長も都内にいた、ということか見聞きした事象を説明する口調にきこえた。彼女は後述に耳を傾ける。「"彼女たち"とは君村ありさ以外の二人、miyakoと山本西條を指す。君村ありさの働きかけが空港ロビーで山本西條に、山本西條から機内でmiyakoへと伝わった。内容はごく平凡、間接的にmiyakoに死体の存在を印象づけたに過ぎない。その後、演奏を止めてまで君村ありさが言い放った。機内に死体がある、と。相容れない、対極の態度に思える。だが、一見矛盾をはらんではいるが、実は別の見方だと、かなり真実味を帯びてくるから、おもしろい」
「おもしろくはありません」死者及び家族への配慮とは別物である。
「君村ありさを、死体を仕掛けた張本人と据える」
「仮定の話ばかりです」
「うん。まんざら頭ごなしに切り捨てるには惜しい考えだという予兆に、一応は私も基づいて話すべきかは選ぶのさ、わかってくれるだろうか?」
「話の先を」
 書類に目を落とす時間が増えた、判断を要する捺印が部長に回ってくるのかどうか、はなはだ疑問ではある。というのも、種田たちが所属する部署はつまはじき、厄介者扱いを受けるしがない者たちの集まりである。おまけにだ、部長は存在すら疑問視される在席率、出現率の低さを臆面もなく部署内のメンバーに留まらず、署内全体にその放浪と堕落を知らしめる。書類の内容はおよそ、部長という責務に課せられた通過儀礼のようなもので、さらに上層の役職へ紙の束が運ばれる類の仕事だろう。
 灰皿にタバコを置く部長はまじまじ書類を引き上げてその表情は分かりやすく厳しさを湛えた。
「なにか?」
「四名の特別便にかかる渡航費の全額免除をここに記す。必要諸経費については事務を通じ出張費の項目に費用の請求を認可する」
「私たちの行動が操られていた……!?」ありえない。そう何度も新事実が明らかになってたまるものか。「辻褄を合わせたに過ぎません!」
「書類の作成日は四月の中旬、費用の請求は翌月末が締切日とするから、意図的であった場合、そうでなかった場合であってもこの特別待遇は事件後、事後的に判断を下した処理だ」力を込めた一押し。「これでいいっと」
「待って下さい」
「倫理観が邪魔をする。それとも、恩を売りたくはない」
「いえ、私の行動をそちらの一存で決められてしまうことへの反発です」
「経費の申請書類をわざと未提出、忘れていた演技でもすることだな」
「私たちを搭乗に導いた、ということは」種田は悠長に振舞う部長の話し振りを先ほどの速度、会話のテンポ、突飛な内容に引き戻す。次の書類をすぐさま目を通す彼に問いかける。まだだ。まだ、私を満たすには足りない、言え。「手を加えた死体に気づかせる腹づもりだったと?ありえない、私たちには正式な報告はなされていない、死体の出現は伝えたのは君村ありさとアイラ・クズミのやり取りが乗客に漏れ聞こえたようなものだった。空港での引きとめでようやく事実を知らされたのです。演奏から離陸までを乗客たちは死体の出現などひとつも信じてはいなかった、それどころか余興とすら認知をしていたでしょう、有名人が二人も現れた、特別な計らい、あるいはゲストを用意してくれた私たちのためにと思い込めた」
「保安員が搭乗していたようだね」
「十和田という探偵です。上層部に雇われた、彼の言い分がまかり通るとでも思っているはずもないですよね」種田は抑揚をつけて言う。
「思惑どおり、計画を遂行に移す」部長は立ち上がった。服に落とした灰を払い落とす、きしんだ椅子に鈴木が反応、しかしまたもや眠りが彼を引っ張る。部長は上着を脱いだ。コートは着ていない、車内から署内であればそれは当然の体温管理に適した服装である。二つに折る上着をデスクにそっと置く、書類を右にずらし、それに伴い灰皿も位置を変える、トレーに隠れた、銀色の縁がそっとこちらを覗き見る。まじまじ上空から地図を眺めるように腰に手を当て、部長は攻め落とす戦略を練る大将の風格を匂わせた。「種田たちの搭乗は偶然。予期せぬ事態はおそらく計画の通りなのだろう。死体を発見する乗客を望む、死体の事実を公表することが目的だった。手を加えたおかしな死体として全乗客、アイラ・クズミのファンに知らしめる、これが狙いなのだよ。警察がのこのこ出張っては、彼女への疑心暗鬼の増幅は中途半端に終わってしまう。思い出してくれ、どうして機内で歌を歌う破目になったのかを」