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論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 4~無料で読める投稿小説~

「確認します」もう一台、端末を彼は取り出す、鞄がバランスを失って倒れた。「……販売数と搭乗者数、決済の人数は、共に、同数で処理されてます」
「保安員を名乗る十和田、という人物はどのように登場を可能としたのか。彼も事前の登録をたまたま済ませていたのか、もしくはライブ観戦のお客であったのか」
「考えもつかなかったなあ、その見方は」カワニが呟いた。
「具体的におっしゃってください、意味が通じる言葉での会話を求めます」種田がいった。
「誰が好き好んでただのビジネス席をエコノミーのお客と代わるって言うんですか。刑事さん、誰だってゆったりしたシートでアイラさんのライブを見たいに決まってます」
「そう」アイラが話を受け取った。彼女はまだ壁を見つめる。「誰もが高額な席を譲るはずがない、実に短絡的な思い込みです。別にカワニさんが劣っている、という発言ではなく、一般的な感覚であるという意味です。とはいえ、通常の感覚を逸脱するにはそれに応じた理由が存在する。通常のライブでも良く耳にするクレームです」
「距離の近さ」送信口に口をつけているのか、ノイズが入った。しかも、返答はすさまじく端的に述べられた。
「ライブにおいても見上げる角度がきついとして、背の高い男性には犬猿されがちです。二列目あたりがもっとも見やすい。方や小柄な女性では前列は窮屈な首の角度からは軽減される、絶好のポジションといえる。しかし、私の定期ライブの会場はライブハウス、スタンディングによる観戦を求めます。体格に劣る女性は背後の圧力に押しつぶされ、気分を害する人も少なくはない」
「余談がすぎる」種田が先を急かす。しかし、アイラはペースを保つ。
「余分な語句を並べ立てるほど暇をもてあます、そのように感じられるとは心外ですね」
「さっさと結論を述べないからでしょう。当然の要求だと、こちらは思っています」
「見やすさ、背丈に応じた座席を当てはめた場合、私の立位置が重要性を増す」アイラは目を閉じて、曲を描く。声は自動的に刑事へと放たれる、考えつくした、一度解いた知恵の輪に挑む。「通路の先頭に立つことは予測できるでしょう、フロアの最後部では後頭部で音を聞かせてしまいますし、通路の中央ではギターや歌声が息のかかる、唾のかかる近い距離で届いてしまう、望ましいとはいえない。よって、私は左右どちらかの通路、それも先頭に近い位置にて演奏に取り組む。では、席の交換を望む、これは可能であったのか。ビジネス席のお客たちはチケット会社を通じて本来観戦する予定だった公演のチケットを得ていた。ライブはスタンディングであり、会場入り口に並ぶ列の順に人気の位置が決まってしまう。そこで入場待ちの列を会場の一時間前に定め、スタンディングの位置取りをチケット番号ごとに割り振る。ライブハウスの協力により平等性を確保した。このように、手にするチケットに応じた立ち位置の法則性は取り扱うチケット番号が唯一、区分の対象に引きあげた。機内の座席も同様にチケット番号ごとに割り振られそうですが、これもまた数字とアルファベットのランダムな組み合わせです。予測を立てて好みの席をビジネスクラス同士が交換し合う、あるいは金銭の上乗せによる取引は起こりにくく、その行為は無意味に等しい」