コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

ぐるぐる、つるつる、うじゃうじゃ 2

トラスポートに人が消える。
 携帯電話の普及率と対照的に姿を消し、絶滅にまで追い込まれた有線の電話回線。電話ボックスを人々の移動手段に摩り替えた役人には、拍手を送ってもいいぐらい。航空機による移動が制限された状態を脱却するために、画期的な装置が開発、即座に全世界へと普及した。航空機製造企業の新型機体は見送られている。瞬間移動装置という未来の創造物でしかなかった移動手段は、人類が窮地に追い込まれたことをきっかけに、現実の世界に颯爽と姿を見せた。
 驚愕で世界は口を空けてい。
 私も驚いた。けれど、最初は信用してなかった。物質の移動はモノや体を構成する組織の情報を転送先に送りつけて、受け取る側が情報をコピー、仮の体に情報を移し変える、という機構。
 そのため、送信側の物や体は、無防備で主の帰りを待たなくてはいけない。私が本体に返る、保証も怪しかったし、利用者は必要に駆られたビジネスマンが大多数だったはず。多くの人は動向を見守ることに決めたんだ、周囲にあわせるのは得意だからね。そうして始まった物体の移動は、数ヵ月後にはあちらこらに。目にも留まらぬ速さで受送信のトランスポートが街中、公園に駅、商業施設、公共施設、レストラン、ビル、マンションのエントランス、個人住宅に普及していったというわけ。
 キクラ・ミツキは渋谷の町を歩く。探してる人に出会う確立は低いだろう、低いという予測も不確か、一度、この場所で見かけた淡い期待にかけたの。
 肩に傷がついていた。私の防護服が切り裂かれていた。近頃流行りの切り裂き魔の仕業だったようで、あの人は、自前のテープで補強をしてくれた。どうしてそんなものを持ち歩いてるのか、なぜ素肌をさらしてるのか、どこで涼やかな顔を獲得したの、あれやこれやとめまぐるしく質問が頭の中で飛び交ったのを、今でも鮮明に覚えてる。一ヶ月前の出会い、出会いって言い切ってもいいのかどうか、彼女は左右に引いた口元を戻した。見られてはいない。皆、兜をかぶっているのだった。
 二股に分かれる道を右へ進む、行き当たりばったり。
 この町は見知らぬ土地。先月は東京に用事があった。父親の転勤先が東京で、週末を利用した久しぶりの再開を果たした帰りに、切り裂き魔に遭遇した、という具合。日が暮れる前に、父親は仕事に出かけた、急用らしく、母の目の届かないところでひそかに浮気でもと疑った私だったけれども、なにぶん父親はうそがつけない性格。表情に出てしまう、受け取った電話口は演技だったら俳優に推薦してる。
 そうか、ミツキは交通量が減った車道を眺めた。
 父親に似てる男を選ぶ傾向かぁ、昔聞いたことのある法則が、ここにきて腑に落ちるとは、人生や他人の助言もまんざらうそではないらしい。
 東京の道は、坂が多くて困る。待ったら伊奈道を想像していた私に、浅はかな憶測だったことを無知な昔に謝らせた。坂道にビルが立ち並ぶ景色はとても新鮮。私はどこに向かってるの?信号を渡って、自問してみた。