コンテナガレージ

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ぐるぐる、つるつる、うじゃうじゃ  2

向かう先、言葉の意味は薄れてしまった。ボックスは出口と入り口を兼ねる。移動も旅のうち、は過去のイベント。「休日は南の島で」なんて聞こえたら、それはジョークだ。外出をアドベンチャー・冒険といえたのは、極限状態と平常が分かれていたから。自然と都市の区切りの恩恵に与かっていただけのこと、命を代償に、生きる実感を味わうのは、日々の生活が補ってくれているよ。日差しが増した当初、雪山の登頂に各国の挑戦者たちがこぞってアタックを始めていた時期がほほえましい。
 他人をけなしたので私の近況をひとつ。

おとなしく通学にいそしんでいる。これでも成績は中の中。今日は母親が朝に出たっきりで監視役の目から解放。いそいそと、自宅前まで乗りつけるマイクロバスで温泉に出かけたのいいことに、私も休暇を与えてはどうかと、思いついたのさ。

 たまにはこうして羽を伸ばさないと。構内でも防護服の着用は義務化。体育の授業もこの服で行う。意外と伸縮性は高いのだ。世界が手がけたんだから、最高級?最大級に紫外線を吸い取ってくれる素材に違いはないんだろう。

 白。そのへんの知識を、私の頭は拒否してしまう。受け継いだ遺伝子に責任を背負ってもらおう。

 ミツキは、蒸散の機能を稼動させた。手首のバングルを一回押す、ディスプレイが現れる。口が先に指令を送る。「暑い」と私は声を発した。防護服の取り替えは基本的に受け付けていない。アップデートが定期的に行われるシステムらしく、不具合の製品は身体の影響を感知すると製造側のサポート隊が約五分以内に現場に駆けつける、といわれてる。ピザの配達をしのぐんだから。
 道路の向こう側、駅へと道を下る人。二人だ。

 タクシーの数もまばら、乗用車はまだ見ていない。都バスが観光客を乗せて、通り過ぎる。上空に飛び交う飛行機やヘリコプターの爆音が懐かしい。

 ガードしたをくぐり、沿線を歩く。高いビルは左斜め後ろに置いてきた。T字路、体育館が線路にぶつかる交差点の角に建つ。屋内の施設には、人の出入りが少しは多いようだ。自家用車が地下の駐車場に入っていく。

 ミツキは兜に手をかけた。自殺志願者、と思われるだろうか。ここで不意に、肩に手がかかって、ぽんぽん、お嬢さん、僕と一緒に死にませんか、へへっ……。

 不審者に呼びかけられるのは、映像の世界の必然性にまみれた作者の都合なんだ。

 とかいっておいて、これが現実に起こるっていうパターンもなしだからね。独り言が多いなあ、今日は。

 ミツキはぐるっと、あたりを見回す。

 一向に、こちらを見つける人間どころか、人の姿が掻き消えた歩道。穏やかな銀杏の葉が路面をぬらしては、押しつぶされてびたっと寄り添う平らな葉をそれぞれが競っているみたい。
「お嬢さん?」不意に声がかかる。冗談だろう、車が通っていない。電車だって、ついさっき通り過ぎたばかり。私の耳は人より外側を向いてる、音には敏感だ。
 期待もせず振り返った先には、こぼこな三つの影がで、ぬらっとこちらを見下げていた。