コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

ぐるぐる、つるつる、うじゃうじゃ  3

「お取り込み中にぶしつけではありますが、質問に答えてくれはしませんかな?」時代遅れ、いまどき老人でもそんなかしこまって遠まわしに喋ったりはしないものだ。真ん中の、一番背の低いに人物は紳士よろしく、ワイングラスでアルコールを勧めるように左手を引き上げた。
「何か?」まったくの別人か。キクラ・ミツキは顎を引いて応じた。片足は、もしものときのために引いておく。
「おやおや、私たちが悪党に思われてますよ」無理に高音域を使う男性の声、そういった人種だろうか。最近では珍しくもない。小柄な男は両隣を見上げる。小鳥みたいな首の動きだった。
「兄貴が悪党って、そりゃ何かの間違いでやんすよ。お嬢さん。時に優しく、今日の朝飯は兄貴のおごりで、ベーグルを食べたんだぞう、女。間違っても、うーんそうだな、駐車違反の切符を無視して、罰金を見逃す警察だと思え」大柄で背の高い男がもふもふした声で弁解した。真ん中の老人が格上で、右隣と左隣の関係性はどうだろうか。
「お前と一緒の血が流れてると思うと、……やりきれないよ、私は。もう少し分別をつけなさい」、と飽きれるもう一人の男。「半分は兄貴が悪い」機械を介して届く音声みたいだ、ホワイトノイズみたいに清らか。
「黙ってる奴が言えた口か、ばか者が」
「馬鹿ではない!おいらはミネだ」
「そんな当たり前、お前が生まれたときから知ってるよ。弟」弟、つまり三人は兄弟、ということで解釈していいのだろうか。裏家業に人間が兄貴と呼ばれる。ミツキは場面を思い浮かべた。義兄弟、血縁関係のない人物同士の絆が彼らを結ぶ。そうすると大柄の男が三男という兄弟構成か。彼女は少しおかしくて、笑ってしまった。
 きりっと鋭いまなざしを感じた。左側の痩身な次男の眼力である。相当な威圧感だ。
 手が叩かれた。拍子を打っ、た正面の小柄な長男が、にやりと口もをと緩めた。不思議。顔が見えないのだから、口元は見えないはずなのに。
「いやいや、お見苦しい。長く一緒に生活を続けると相手の嫌な部分が気になってしまう。飛んだ、内輪もめに気分を害したのであれば、このとおり丁重に謝罪を申し上げます。非礼をお詫びいたします」鶏冠を思わせる頭頂部が見えて、次男、三男と続く。体の硬そうな三男は兜を両手で押さえながら、腰を曲げようとするが、曲がらない。どうしても左右に曲がり、ダンスを踊ってしまう。これはいったい、笑わないよう私に仕向けた何かしらの試験だろうか、カメラはどこに?彼女はさっと彼らに半身を見せつつ、右肩を引いて、歩いてきた後ろの歩道を盗み見た。
「キクラ・ミツキさんで、いらっしゃいますね?」