コンテナガレージ

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ぐるぐる、つるつる、うじゃうじゃ  3

「……」
「無言は、同意とみなしますが、よろしいですかね。それとも……」
「キクラですが、なにか?」彼女は遮って、体を正対させる。口元を引き締めた、顎を引く、唾も飲み込んだ。口調はすばやく、言葉が口をついた。相手にはこちらの心情は伝わったはず。
「自殺行為に等しい格好で探しておられる様子を、お坊ちゃまは大変危惧されております。つきましては、自らを傷つける行為は控えるようにとの、お達しです」
「お坊ちゃまって、私が探してる人です!その人です!会わせてください、知ってるんでしょ!」とっさに手を握ってしまう。防護服を生身、素手で触らないよう教えられてきた。事態は一刻を争うんだ、彼女はよぎった不安を、握力を高めることによって振り切る。
 長男がミツキの耳をつまみあげる、外側に引っ張った。
「痛っ、ちょ、これは、痛いって」
「まずは腰に結んだ服に袖を通す。フードをかぶりましょうかね、お嬢さん」
 火照った肌、たぎるような熱に気がつけた。私は言われたとおり、防護服に身を包んだ。冷却気が体内を冷やす、同時に薬品も注入された。やけどの処置は早急な対処が回復の度合いを決定づける。
 嫌になるほど聞かされた、耳の痛い決まりが今更になって実感、身にしみた。
 ミツキは、行く手を阻んだ三名の男たちに従う。
 期待が膨らむ。やっとだ、温めに温めた道にやっとたどり着こうとしてるんだ。ほくそえんだ私を今日だけ許す。
 松籟が吹いた。街路樹は銀杏だけど、この際細かいことは目をつぶろうではないか。私も小柄な長男の言葉遣いが移ったみたい。
「そろそろ、お話を拝聴してくださる姿勢のようですね」長男はそういうと、すばやい身のこなしからこぶしを繰り出した。私はどうしたかというと、数年ぶりに地面と背中を合わせた。鳥が飛んでいく、本物じゃないはずだよ、だって黄色いひよこみたいな鳥なんて見たこと、ないん、だ。それ、にさあ、紫外、線が増えて、鳥、は絶滅、したん、じゃ、ないか。
 ピーチク、パーチク。視界の端に小さなフラッシュが明滅する。まぶたを閉じてるのに、ちっとも暗いとは思わなかった。