コンテナガレージ

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ただただ茫然、つぎつぎ唖然 2

犬みたいに短い髪を一振り、両拳を握り締めて力を込めた。よしっ、と体内に向けてミツキは気合を入れる。 
 枯れ葉、階段に振りまいたとしか思えない。そっと、確かめて、彼女は一段ずつ降りた。
 両足が階下にたどり着くと、明かりはぱっと、それこそ侵入を監視していたかのように視界が開けた。感度センサーにしては、タイミングが良すぎる、高感度のセンサーをそもそも地下室に備え付ける意味は疑問符が漂う。階段の残り数段に差し掛かったところが、抜群に驚き、引き返させる効力を発揮するとは思うんだが……妙に泥棒側の真理が性に合うミツキは、明るさを武器に、いいや盾にずんずんと、からっと乾燥気味の通路を突き進んだ。
 通路は一本の直線が突き当たりまで伸びる。
 赤みを帯びた樫の木のドアが待ち構える、正方形が八つ、二列に配置。ミツキの喉の高さにライオンが口をあけて咆哮をあげる。顔を近づけてた。きれい、掃除が行き届いている。
「どうぞ中へお入りください」しわがれた声だ、発信元は不明である。不思議と嫌な気持ちは感じなかった。おっとりとした言い回し、使い慣れた言葉遣い、普段から使う場面、対象となる人物がいるのかもしれないない。ミツキは一度、通路を肩越しに振り返る、一瞬だけ引き返すかどうかの迷いが生じた。しかし、手は既に扉のハンドルを掴んでいた。掴んだら最後、だった。
 スカートを履いた私や男子に混じってボールを追いかける私、昆虫に一日中生活をともにした私、抱えた悩みのやり場に困った私、人を嫌った悪態をついた鼻で笑った理由をつけて逃げ出した、あらゆる私と縁を切る。
 なぜか、踏み出す前にこれまで私を作った彼女たちと縁を切らなくては、そう信念が訴えたの。汚れた私とさようならってことかも。
 ずるりと私の皮がはがれた。私に不要な防護服にまぎれて、彼女は中身を取り出した。着膨れしたスキーウェアを脱ぐみたいに。
 夕食の香りが漂うドアの隙間、漏れる証明の黄色、誘われて誰かがそこに部屋の中にいたら私は意図も簡単に手を上げて、私をその人に紹介するだろう。