コンテナガレージ

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ただただ呆然、つぎつぎ唖然 3

「温度は適温に下げております、すぐ召し上がられるのがよろしいかと存じます」執事がすっと、離れる。
「いただきます」詮索がありありと顔に出ていたと思う、兜をはずすとこうもりアクションがダイレクトに伝わるのか、しかし私が望んでいたことではないのか、ミツキはぐるぐる回った思惑をがしがし噛み砕く。ああ、なるほどね。ほっ、と息を吐いて、彼女は思い至る。素顔は、考えている姿をも他人に読まれる場面があるんだ。
「さて、わたくしはこの家に仕える倉田正二郎と申します。はばかりながら執事である私が自己紹介をするなど度、前代未聞にして暇を出されても反論の機会を与えられないほど無礼ででしゃばりな、発言で、気分を害され手も仕方ありません。ですが、少しばかり、お客様が登場した際にはこうしてわたしくの正体を打ち明けることが何かと必要となりますので、ご了承願います。本日お越しくださった、キクラ・ミツキ様は六十二番目のご来場です。あなた様の前に六十一名をお迎えしました。彼女たち彼らたちはしかし、お坊ちゃまに会うことを許されない境遇に陥りました、みなまでは言わないでおきましょうか、それが優しさというものですからね。なお、今すぐに席を立たれても、背後のドアは施錠されておりますゆえ、無益な行動には走らないことを願うまで。もちろん、わたくしの発言に信憑性が感じられないのは、大いにわたしくも賛同しております。ただし、聞き手に判断を委ねる注意は得てして、やんわり事実の一端を見せていることだと、長年の経験が物語る。当然の指摘ですが、わたくしの経験はあなた様には見えません」
 とつとつ、リズミカルに釘を打つかと思えば、のこぎりで連続した音質を奏でもする。不思議な喋り方、難しい言い回しを多用もせず、かつ丁寧であり、やわらかい、指摘も含んでいた。ミツキの深層はずずず、執事に飲み込まれる。目的を忘れたわけではない、覚えているさ、あの人の姿を右手がしっかり手がしびを諸共しない気力で掴み続けてる。
 彼女は尋ねた。「おいしいお茶をありがとうございます。もう、私は行かなくては。申し訳ありません、長々とその無駄話に付き合う暇は今の私には存在しない。どうか、あの人の居場所を教えてください」
「どうか、お茶を召し上がって」真似に聞こえない繰り返し、仕組みが気になる。「その後にお話は受けたまわります」
 ミツキは上げかけた腰を下ろした。トーンがどうかの箇所で微妙に文節を切ったように聞こえた。心地よかった言い回しが台無し、わざと?執事はまたもとの直立に戻る。ゲーム、だと三兄弟が話していた。攻略法が存在する、ということか、それとも人生をゲームにたとえた、通常の意味だろうか、彼女はその場で動けなくなった。しょうがない、紅茶を啜る。川に溶け出したタンニンの色、紅茶を見てこれを思う人は私ぐらいかもしれない。
「うあああっ」
 カップを置いていて良かった、ミツキは足首を掴まれた。テーブルのクロスに隠れて人が中に潜んでいた?彼女は、そっと足を引き抜く、力を込めたのは一度きりで接触面はすぐに離れた。
 やれやれ、表情はそんな風に見えた。メイド姿の女性、年増の年季の入った家政婦のような人物がにょっきり姿を見せたんだ。驚きよりも、足首を掴まれたショックが引き続いて、新たな登場人物へ向かうはずの観測が追いつかない出る。つばを飲み込む。
 張り出したスカートを払って女性が言い放つ、引き上げた顎が特徴的だった。好意的な印象を私に持っていないことはかろうじて察しがつく。
「倉田があなたに加担していてるか、久しぶりに外で見ようかと思ったぞ。紫外線がぱったり降り止んでいるかもしれんしなあ」体格と風貌から導く音声のすべてを裏切った、野太い声。この人は後天的に獲得したような気がする。
 執事の倉田がそっけなく応える。「紫外線量にここ数年変動はありません」
「言葉のあやだろう」
「メイドが使ってよい言葉とは思えませんね」
 二人が重なり、執事の顔は良く見えなかった。