コンテナガレージ

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ただただ呆然、つぎつぎ唖然 5

かちり。彼女の内部でひそやかに、機構がかみ合う。
 これまでの私を、おいてきた私を、こびりついて離れようとしがみつくこれらを、ガラス瓶に変えた。
 魔法を使った。手当たりしだい、目に付いた丁寧に色までついた多種多様な瓶をためらうことなく、白い床に叩きつける。どんどん、リズミカルに、ばりんばりん。
 瓶詰めの防護服をかち割る。未練はない。着飾った私は片手でぴょいっと。
 サリーは身軽によけた。計算済み、無礼な振る舞いだと思うなら、あなたが訊いて見なさいよ、彼女は思う。
 紫外線を浴びた無防備な人型は遠くへ放り投げる、手首のスナップをきかせた。
 待って、平等な時間でと、ミツキは願う。殴られ、戒律を守り、ドアノブをしっかり握った今日の私を真上に投げて、受け取り、右手でスローイング。ティーカップを口に運ぶ警戒心の塊を指先ではじく。小瓶は右腕で一掃、がしゃん、ばらばり、からんしゃりん。
 透明な瓶だ。何も入っていない、空っぽの容器。捨てる物、いらない概念、かりそめの私を構成した縁者のほかに捨てることを求められる?ミツキは首をかしげる
「来るわ」十メートル先、爪先立ちでサリーが言う。小声だったのに、私には聞こえてしまえた。不思議。
 猫みたいに容器を撫で回す、左右に上下をひっくり返して中をのぞいて、ふたはないから、やっぱり猫の前足よろしくかき回したり、顔は当然サイズオーバーだから、片目を凝らして覗き込んでみたり。時間がせまってきてほしい。
 来てしまえばいい、予定不調和が舞い込んでくれたらいかがだろう。未知数なのに楽し気な未来が想像できた、楽しめる自信が弾んでる。
 こねくり回して、ようやくまっさらに周回遅れの私が二度目の、いや三度目を越えたリスタートを切る。
 ゆるゆる、体は正直に、プレゼントに仕立て上げた空のビンを、賞状を手渡す名前だけの脇役はごめんだと。一言、心境を思うとおりに表現して見せようではないか。
 来るがいい、来てみろ。ミツキは立ち上がった。
 右側にあの人が漂う、とミツキは天井と床の間にビンを差し出す。
「ありがとう」現れたあの人はきれいに、そして正しく笑い、私へビンを投げつけた。