コンテナガレージ

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白い封筒とカラフルな便箋

見限ったとは、ニュアンスが異なる。もとより別々の生物世界として対峙するのだから。これがアイラの言い分。訊かれたので応えたまで。

先日のインタビューだった。

もう雑誌の取材は受けない、マネージャーに宣言したはずが、出稿前の最終チェックをこちらに一任することで、仕事を取り付け、打ち合わせと称して私を事務所へ呼び出す。会議室の観葉植物をバックに、質問には答えた。応えてしまった、これが正しい。

 私自身、整理がつかない状態だった記憶を、そのまま保存してたのは事実である。時期を見計らって少しずつ紐解いていければ、と一挙に確定を施すつもりは、まったくの想定外だった。本末転倒であるが、まず異常性を帯びた事件を問題視するべきだろう。私の記憶処理と、比べる対象にそちらの記憶を引きあげてくれとは、誰も頼んでない。 

 不可解という言葉が許された唯一の事件だろう。世間で報道される殺人の類とは一線を画す。そもそも人の行動に動機を当てはめる、それ自体が間違いであるのに。なぜ、気がつかないのだろう。殺人に踏み切る、一線を越えた人生を狂わせる後戻りの許されない、非情で残忍な犯行は自分たちには決して訪れることのない事例だと信じているのか。まったく馬鹿げた連想、干からびた賢察だ。それこそ自らがいつか、過ちを犯しかねないのに。誤作動は必ず起こす、健康だと言い張っているよりも不具合の調整に悩む人物が長く生きられる。臆病な人ほど生存している確率が高い、不完全で決して完璧にはなりえない、それが私たち。