コンテナガレージ

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白い封筒とカラフルな便箋

「関係者全員にインフルエンザの予防接種を義務づけます、感染者がゼロだったツアーは偶然をすり抜けたに過ぎません。私を除く何人が事前にその危険性に気を払っていたか、おそらく二名が妥当な数字でしょう」

 アイラは一瞥、カワニははたと我に返って、上半身を元の位置に落ち着けた。そして、跳ねるように立ち上がってみせた、まるでバネを仕込んだ跳躍。

「一つ、私の疑問に答えてください」彼女はそっけなく嬉々になびくマネージャーに問いかけた。しかし、彼は聞いていない。

「スタジオやら当日の日取りはこれから僕が責任を持って取り決めて、ああ、どうしよう、楽しみでしかないぞぅ」

「そのことではありません」灰皿の隙間、細長い円柱のスポークへ灰を落した。ふわり、煙が舞うも、即座に空調設備が回収する。「雑誌にセッションの様子を掲載してしまう、すると場面を文字で表現する感度の鈍い劣化した情報を提供する羽目にはならないのでしょうか。写真が一場面を捉える、想像は膨らみます。ですが、臨場感には欠ける。セッションを行う意義は満たない」

「心配いりませんって」絶え間ない笑顔を彼はたたえた、立ち姿は怪獣を打ち倒す正義の味方、町をなぎ払ってでも侵略を食い止める犠牲を厭わない無謀なヒーローに見える。「だって生中継ですから」

「不適切な回答」左目のみでカワニを見据える、威嚇を多少込めた。

「マイクは一本、レコーディングブースのラインを、全世界へ届ける。管理は任せてください、通訳も一応ですけれどつけます。事件のことを一言でも掬い取ったら、セッション中止は絶対、という約束を固く誓わせます、事前に厳重に厳守させますので。放縦は厳正に取り締まる」

「放送の告知は行うのでしょうか?事務所のホームページに乗せるのかしら?」アイラは尋ねた。突然、生放送を始めてしまっては常日頃から私を追いかける、私の活動の変遷を辿ることを日課とした人物に視聴対象が限られる、これではセッションの意義が掠れてしまう。お客の大多数は仕事を持つのだ、自由な時間はそれそれによる。このブースに入るのは早朝か。ライブは午前の時間帯と予測がつく、私はこの要望を押し通すだろう。より多数の顧客を勝ち取る、ファンの裾野を広げる事務所の計画にはそぐわないことは確かだ。

 満足げな彼はさっと歩き出した、取り囲むベンチタイプの椅子と真ん中二本の四角柱型の灰皿の間、を進んでいった。