コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

至深な深紫、実態は浅膚 2

図書館の一階、三辺を書棚に囲まれた狭い奥に長い閲覧室。過去の新聞がずらりと整頓、だからといって読まれるのは今日の紙面、大抵はスポーツ紙か全国紙、地方新聞や数日前の各新聞には目もくれないの。かく言う私もその一人。ではどうして席に着き、学ぶ姿勢を確保してまで図書館に居座るのか、というと何を隠そう、手紙を書く、これが目的だ。いまどき遅れている、というか手紙の出し方、書く機会を同級生たちの大半は未体験のまま生きていて、特に私の行動も異質の部類には収まらず、横目で無害であると確認すると通り過ぎる。ありがたいではないか、暗い奴と思われているだろう、しかしだからといって私を曲げるのはもっとおかしな道理に思える。アイラが言っていたもの……。

 これから夜学の生徒がどっと押し寄せる。時刻は午後の五時、明日の収集時間に間に合わせなくては、田端ミキは下を向いた際に垂れる髪を耳にかけて、ペンを走らせた。彼女は国立K大学の三年、国文科の学生である。将来の就職先は出版社と一応の目安はあるものの、自分に務まるかどうか、不安定な時期を過ごす。明確な目的というと、目下とのところはアイラ・クズミという女性歌手が手を伸ばして掴み取って触れてみたい対象物、そう、現実を避けているってことぐらいわかっている、彼女は小刻みに頷く。一人、隣の人物が席を立った、これでここは私の独占に移行する。何人も私の許可なしに閲覧室には座るべからず、などと内部では不遜で馬鹿げた態度をとっている。ただ、し、表ではひっそりと生きてる私、二面性という一線は踏みとどまるつもり。だけれど、ことアイラに関しては、リミッターを振り切る、いいや振り切ってしまえるの。

 ぺしぺし、ボールペンで頬を打つ。講義室とは正反対な態度だ。アイラのように、私も自然に強く、自由に、そしてしなやかに振舞えたらな……、彼女はため息をついた。幻想、それはわかっている、わかりすぎるほどだ、上手に振舞えないのが私だ、どうしても、工夫を凝らしても、対策を立てても、失敗が必ず背後に潜み後押しするのだから、諦める、これが最良の作戦、そこに気がついたのは、ついこの間の去年の夏、八月だった。