コンテナガレージ

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至深な深紫、実態は浅膚 5

「たしかに、これでは難しい」カワニが素直に呟いた。盛り上がる形状、窓枠の際を飛び出すコンクリートが覆う。二窓は淡い光を帯びた程度で、不破の指摘も一理あるとアイラは認めた。しかし、要因はほかにある。アイラは足元を気にかけた。歴史的な建造物を浮かび上がらせるライトアップが外周に張り巡らされて、それらが建物二階の明かりの存在を見事に消し去っていたのだ。もちろん、指摘した。屋外は警察車両の赤色灯や鑑識のハンドライト、白い仮説テントにぶら下がるランタン型のLEDライト等で現場の直後の再現からはかなりかけ離れる現状を踏まえている、それも一応丁寧に伝えた。しかも、二窓の中間に真下を照らす外灯が灯るのだから、わざわざ見せ付ける必要はないように思う。まるでなっていない、言葉を発してから事態を見つめるのでは、鈍重と言わざるを得ない。

 アイラは普段身に着けない腕時計もほとんど連絡を受け取るだけの端末もホテルに置いてきた。

 何時だろう、現在地と月の位置を計算に、季節を踏まえて、と彼女の興味は事件を離れる。

「窓から逃げた犯人を、その管理人は追いかけたのですか?」興味が湧いたというよりも、恐る恐るカワニが話の先を尋ねる、彼は警察に遠慮がちだ。微風が体を冷やす、身震いがした。恐怖心の高まりとは別だ、それは想像そのもの、現在の気温とこわばった薄着の上半身、不規則な時間帯に不意に起こされた状況とに、体のセンサーが寒気を感じたのだ。

「それがどうもそのあたりの状況が要領を得ませんで、犯人は見たのに、追いかけなかった。おそらく凶器を所持していたと思われます。距離を取りたがる心理はわからないでもありません、ただ窓がですね、連絡を終えて戻って見ると閉まっていた、こう主張するんです」理解に苦しむ。すべての事柄、人の行動を読み取れる誤った感覚が警察では主流らしい。アイラは息を吐いた。煙草を持ってくればよかった、これが最大の後悔だ、くしゃみでもしようか、気を利かせて場所を移すかもしれない。煙草が待つホテルの部屋へ。

「へっくし」破裂音を抑えたくしゃみが窓から聞こえた。丸々とした体を折って土井が居場所を教える。

 アイラは痺れを切らせて、本題に入った。不破の態度は表面的な探りを入れていることぐらい彼女は感知している。