コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

本心は朧、実態は青緑  1

 第二週目の会場は厳かな教会であった。ゴシック様式だろうか、小さい尖塔が建物の正面からちらりと首を伸ばす熊本市内のどこか、である。左手にビルが迫る隣接した立地、この教会は町の発展以前に居を構えていたことが窺える。

 敷地の左手、教会建物の手前に、慈悲の面持ちを携えたマリア像が台座から見下ろしていた。蒼白な表情に憂いを見出せる、私たち人間は擬人化が得意らしい、親しみや敬意はアイラの胸中を過ぎ去ってしまう。理解と想像は容易い。ただし、これは自身の神を外部へ知らずに見出した傾倒にすぎない。それなら各々のスペースでひっそり神の降臨を楽しんでみてはどうだろう、造作もないこと。少なくともここ数十年は私は"神"との離反を貫き通す、アイラはカワニに続き教会の下見に取り掛かった。

 今日と明日の二日間がリハーサルに当てられる期日だ、火、木、土と、平日に二度、それから週末に一度、公演を行う。お客の職種によっては平日に休みが取りやすく、また反対に週末に取得が容易である、この二つのパターンを反映させた。

 教会の神父に挨拶を交わす、日曜の礼拝にきっちり明け渡す約束を神父は念を押した。まばらな頭髪と不釣合いな白髭、一枚布の黒衣のその黒がくっきり、髭とのコントラストを演出する。胸元に下がるロザリオがひらひらと淡い光を跳ね返す様は教義と対極に位置、不要な装飾が彼の佇まいを貶める。神父は質素、というのがアイラの認識であったからだ。

 彼は教え伝える者。白でなくてはならない。好きな色は消しておくか、しまっておくべき。建物にはどこか神父の自室が香っていた。