コンテナガレージ

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本心は朧、実態は青緑 4

「構いません」

「いいや、メーターを一度止める。すまない、ニ、三分遅れてしまう」

「急いでいるわけではありません。歩くつもりでしたから、それに比べると到着は格段に早い」飛行機が上空を飛来、高度が低い、降り立つのか、飛び立ったばかりか。

「天草に飛ぶ飛行機だわな」運転手が言う。

「小規模の空港ですか?」

「福岡と熊本と鹿児島と、本州にも飛んでるじゃろうか、ほれ福岡までは三時間かかるところを三十分で飛べてしまえる、ビジネスマンと観光客はよく利用するんだわ」

 信号が赤、しかし行き交う車はぱったりと消えていた。明日のセットリストにアクシデントというスパイスを加える。初見の曲を一曲、練習風景をお客に見てもらおう。始まったのか、それともこれは見てはいけない場面なのか、戸惑うだろう。うん。ライブの一曲目がいい、つたない感情を出したいので、私とは縁遠く、お客には身近な曲を、スタイリストのアキかカワニに選んでもらおう、楽譜は数時間で手に入るだろう。

 凄惨な死体がフラッシュバックした。スライドショーのように画像を捲る、自動的に終わる。車内に戻る。

「わしも昔歌手を目指したことがあるんですわ、これでもね」運転手がうれしそうに話す。

「諦めた理由は?」

「ぜーせん、だれもわかっておりゃせんかった。顔だのスタイルだのジャンルだのって、歌謡曲が好きでね、だけどもう流行おくれだったのさ、今考えてみると」

「あなたのためになら、いつでも歌えます。聴いて欲しいのなら、対策を打つべきです。私はそうしてきました」

「あんた、正直だな」

「偽るとあなたは気分を害する。声は正直ですから」