コンテナガレージ

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本心は朧、実態は青緑 6

「中に観客がいます。拘束されては困ります」

「状況次第ですね、それは。まだ、なんともいえません」

「なにがあったのです?」アイラは興味を装って訊いた。

「殺人です。阿倍記念館と同一の事件が教会で起きた、と匿名の通報があったのですよ」

 アイラと佐賀県警の刑事・不破と土井は連れ立って教会の裏手に廻った。彼女は裏手に廻ったのは始めてであり、車を止める駐車スペースを予測した程度だった。案の定、広がる光景は白線で区切られた六台分の駐車場そのものであった、ただの一点を除いて。

 制服の警官が首を振る、駐車場中央の白線が途切れたアスファルトに人の頭が教会側に向き、足元が奥に向う、また背中に突き刺さるナイフがきらびやかに刀身を見てくれるように願いを込めて、光る。一定の距離に近づくと、血の鉄分が鼻をついた。傾斜した地形に作られた駐車場らしい、溢れる血液が塊となって川を作り、右の車止めでやっと止まる。

 まさに死体である。驚きはしかし、半減しただろう、アイラは心象を冷静に分析する。彼女を追い越した土井が体を揺らして死体に近づく。広がった血だまりは、まだ乾いていない。つまり、数十分か長くて数時間、誰も気がつかなかったのだろうか。アイラは周辺を見渡した。左手は茶色のビルがのっそりと視界を塞ぐ、窓らしきものは見て取れるが、頻繁に開け閉めされる窓には思えない、カーテンは厚く閉り、窓そのもの大きさもトイレの窓がいいところ。正面は空き地だ、刈り取られた緑は人の手が入った形跡が確認できるが、それは売り地の看板が人気のなさを証明している、次に右斜めに建つビル。こちらも窓はなし、穴と言えば、排気口が下向きに取り付けてあるぐらいで、人が覗く空間は皆無に等しい、屋上につながる梯子は建物側面に取り付けてかかるけれど、地上から上る類のもので、内部から屋上に移るルートは淡い期待に終わるだろう。そして、右手は五階建てのマンション。住居窓はある、目撃者がいるかもしれない、死体と犯人を見ていないにしろ、怪しい人物もしくは目撃したときには死体や犯人とは思っていなかった人物を見ている可能性はなきにしもあらずか、アイラはとっさに現場の状況を浚った自分を、大いに呪った。警察の対応が緩慢に見えた、これを要因に仕立て上げよう、無意識に事件が気になったなどとは、思いたくはない。

 靴音を鳴らしてカワニが真横に並ぶ、彼は右足を擦った走りが特徴である。息が切れていた、興奮と日ごろの運動不足。

「はあ、はあ。もしかして、はあ、またですか、まいったよぅ」