「ナイフで殺人を犯す、実行にはハンデが伴いますでしょう。が、制約を抱えた人たち、私たちを集め、あなたは疑いをかけています。裏を返すとそれは、私たちへの疑いを強く信じられる、私たちの知らない証拠があると検討がつく。屋外での犯行、目撃者は今のところ一名が名乗り出た。ところが、走り去るバンを見た、という証言です。エンジンかタイヤが発する急発進の音を聞きつけ、現場に視線を送った可能性は高い。要するに犯人と犯行は見ていなかった。おそらく、それまで目撃した窓は閉まっていた、そして走行音あるいはエンジン音を聞き、反応した。車両に意識を植え付け、徒歩で犯人は通行人にまぎれて立ち去った、このようにもいえてしまえる」アキは手元の端末を読み上げたていた。私が死角となり、不破からは彼女の右手は見えない。
「察しがいい、あなたは。では、ライブの間、どこでなにをしていたのでしょうか、カワニさんの近くにもそれからそちらの二人の女性の近辺でもあなたを見かけてはいません」
「車内です」
「車内?それは白い送迎用に借りたバンですか?」
「はい」
「車の運転はご自分でされます?」不破は続けて訊く。
「多少は。車は持ってませんが、月に数回は、運転します」アキの視線は端末を外れている。
「車のキーはあなたが持っていた、これに間違いはありませんか?」
「キーは私が持ってはいました」
「反論を」薄く笑う彼は核心を帯びて先を促す。
「……」
途切れたアキと不破の会話を長尺の長考が予見されるも、颯爽とアイラがそれを引き継いだ。