コンテナガレージ

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赤が染色、変色 3

 カワニは裏方の人間、それゆえ映像化やネット上にあるいはその他媒体への公開という可能性が片隅に残っていた。一夜限りとは割り切れないのだろう、どこまでも貪欲で、つまるところ歌手たちの多くはそうやって、物理的に一度きりのライブすらも繰り返し、大多数の小さな画面上で好きな時に観戦されてしまう。かつての大昔の演奏すら見られてしまう。彼女は正方形にかたどった床の一枚に両足を乗せる、作り手と演奏家の違いを持ち上げる、浮遊、ガラスのビンを潔く落し割った。

 賛成の態度を示す。アイラが無言であるときそれは、実際賛否のどちらとも言えず、しかし彼女にとっては外面に向けたほぼ賛成に傾いた意見だ。

 現場の下見に彼女はとりかかった。後ろ手に散策。

 たとえるならこの殺風景な会場はホテルの宴会場だろう。彼女は極力外側を回る。入り口をスタート地点にすえて、ステージを回り、戻る計画。

 会場の設営等をこの九州ツアー全域で任せる業者は出番を大幅に避けられたようだ、大掛かりな仕事は客席の搬入と搬出。それも会場内にどうやら椅子はまとまって格納されている、壁の一部が倉庫になっていて、扉が開かれていた。

 ところで次週、最終週の福岡会場の2DAYS という連続開催が予定されるのであるが、これはアイラも今日の車中で聞かされた内容で、翌月にまたがって一公演を十一月二日の週末の土曜日に延期する、こういった目算が立っていると勘違いをしていた。都市部という土地柄か、カワニ曰く、平日の開催を望む声が高かった。事前に行った調査では、九州のレコード店、CDショップ、家電量販店等に電話とメールによる質問を送っていた。そのため、もたらされた回答は彼の英断を後押し、いち早く福岡会場の平日ライブが決まった、という経緯。平日と週末の区別は気にしてなかった。欲しいデータは「遠征先」の枠内。そろそろ形は見えてくる頃だろう、アイラはしかし、データの整理は控えていた。すべて集まってからだ。