コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

赤が染色、変色 3

 差し掛かったステージ、ひょいと、彼女は飛び乗った。中央に立つ。

 人知れず音を奏でる、斜めに出番を待つ踏ん反り返る一本をスタンドから手に取る。観客は数人。

 亡くなった人物が残したと思われる、手紙を浚った。歌いながらである。

 私が目的らしい、人生の目的に人の一部を据えるのか、とても危険で不安定な指標だと思う。確かに、彼女たちが受け取る心象風景は私が思い描いた一部だ。そう、けれどたったの一面。

 メディアへの露出を控える理由を把握しきれてはいないのさ。

 彼女たち個人の意見に適う最も優先される彼女たちの指標という不変な位置づけを、あるべき進むべき道をだ、……私から指し示すのは愚かだろう。

 私と相容れる理想はすぐさま消し去って欲しい。握手も、笑顔を振りまくことも、"理想のあなた"でいることのすべてを私は粉みじんに否定する。

 過去が私を形成した。再構築は不可能。依然として現状を維持。不安?掻き消えた、とっくに。振り返るのはやめたの、みていても眺めてばかりで手に取らなくては私がそこにいて、なにをしていたのか先の私には説明ができない。説明は不要、行動に理由という名の動力は付き物、私は過去を捨てた。取り合うならば、未来へと顔の向きをシフト、方針を変えた。だからといって、勧めているつもりはないし、なんなら私の使用は特別であり、真似は禁物。あまりにも不道徳で排他的、憧憬を望むつもりだったら、アイドルや他の歌手で満たすべきだ。リハーサル、現在はそうよ、未来のために私が躍動してる。私の存在が社会貢献につながるとは微塵も感じられない、感触はひしひしと伝わる、だが応じることはありえない。そもそも崇め奉る神の救いを外部に求めたその時点で内部の自分を蔑ろに、考え抜く指標を置き換え、楽になりたい、自由に苦役から逃れたいがためのいわば、後退の精神ときっぱり縁を切る。悪くはない、救われる人がいることは事実だ、ただし私は堕ちない。選択肢の経路が遮断してある。はじめから、これが私と世界との違い。誰にでもなれる、羨望を求めたこともなければ、憧れを他人に抱いたことだってありはしない。すぐにできたのだ。だから控えた。怪物という扱いを避けるために、人から離れた。すべてに長けた人物は神として地位獲得を前に、異質な物体、この形容を与えられる。知らないだろう、大人たちがいかに無知であるか、同級生がドンドン鈍くなっていくことを、私よりも若い人たちが私よりも優れていることを……。