コンテナガレージ

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赤が染色、変色 7

「もう、まもなくです。よろしくおねがいします」別のスタッフ、インカムをつけたスタッフに言われる。カワニからギターを受け取る、音響スタッフからわざわざカワニが掠め取ったらしい。この役目が重要には思えないが、彼にしてみれば、抱える歌手を鼓舞する演技、という綱渡りの解釈を一応認めてあげよう。スタイリストのアキは、カワニから半歩後方に待ち構える。タオルを両手に持って、神妙な面持ち、突然の衣装変更に落胆したのは彼女なのだろう、人の心配か、最近はどうにも他人の心情が内部に入り込む、きつくネジを締めなおさないと。

「アイラさん、スタンバイしました。まもなく本番でーす」

「いきます」

「今日を入れて、あと三公演ですよぅ。気を引き締めて行きましょう」、とカワニ。

 壇上へ、階段を上る。

 リハーサル室の印象は思ったよりも観客が多い。

 スタンディング、暗がり、興奮気味、手を上げ、奇怪な指の形、叫び、なおも呼び続ける、聞き取れない低音と高音の融合、彼女はしかし状況を逆手に取る。じっと観客を見つめては、開きかけた口を閉じて、キーの調節に弦を弾いてはどよめきにまぎれ、手を止めた。いつかは発信を待つ、待たせすぎてもダメ、だから、いつでも見逃さないことを前提に、こうして私の呼吸を観客たちのそれぞれに合わせるのだ。

 今か今かと始まりを待つ眼差しを肩ですかす。不安が襲った引き潮をキャッチアップ。

「ワン、ツー、あ、ワンツースリー、あいっ」

 九州ツアー第四週、大分コンベンションセンター、二階、リハーサル室、開演。