コンテナガレージ

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赤が染色、変色 8

 足元の水溜りをよけて車を縫う、小雨が斜めに肌を刺す屋外は午後六時二十分、白色光の外灯を目印にすっぽりと黒が包む空間に私だけが離れた。ほとんどのお客は会場内に待機している。動きに逆らうのって大変、久しぶりにアイラを見つけた東京の満員電車まで遡るんだ。

 大量に買い込んだ。グッズを車内に運ぶ、紙袋二つ分。保管用と開封・普段用の二種類を買った。早速Tシャツを一枚、コートのなかに着込んだ。続々コンベンションセンターに人が流れる。駐車場はほぼ満車、見つけるのが大変だった、というのは嘘になるか、松田三葉は感想をやんわり訂正した。

 車内に逃げたのもつかの間、彼女は決意を新たに大分コンベンションセンターへ引き返した、会場入りの午後六時三十分である。

 高い湿度、むせ返る衣類の匂いが立ち込める。入り口付近の渋滞は傘やレインコートをしまうお客たちが引き起こしていた。すり抜けて二階に歩を進めた、センター内は幾つもの会場で催しが開かれている。アイラ・クズミのコンサート会場への入場チェックというのは、二階の廊下で行われた、ライブの開催前後は二階の通路全域が関係者とお客以外の立ち入りを禁止してるんだろうな、三葉はコートのポケットを探った。取り出して一安心。端末を握り締めないように、そして絶対に落下や紛失は避けるように気を配る、気を張る。彼女は落しても音が鳴る旅行先の神社で買ったいつかの鈴を取り付けた財布に大切に保管し、チェックの直前まで出し入れを極力控えた。

 列が進み、順番が回る。振り返って後ろ、階段は右端が上り専用、左が下りと分かれる。年末の首都高の様子、いつもテレビで見る光景が頭を過ぎった。