「これでいいのかしら」、呟く。
彼女は私に触れてくれた、だから私に色が生まれた。発色を知り、明度がもたらされた。出発はあなた。そう、結論は一つの答えに達したの。受け入れてもらえるだろうか、不安が尽きない。見えているだろうか、あの人に私が。
手紙の書き手とはまた異なる種類の心境なんだなこれが、わからないでしょうね、あなたたちには。
コンコン。ドアがノック。早く出ろ、自分ばかりが優先事項。
水を流し、もう一度だけ、金属を見つめた。私が映る。あなたがいて、私が見えてる。しかも、欲したあなたがとても美しかったので、元々備わったあなたの身をこの手で抱きとめてさ、味わいたいのよね。
笑みをたたえてドアを出る、ずらりと並んだ列。交通渋滞みたいなもの、一人の遅れがもう一人に連動するんだろう。
ハンカチで手を拭く、水分を弾き飛ばす機械は使わない、汚れを落としたの、汚れるのよ、だから美しいあの人を取り込むの、ハンカチはそのためのアイテム、汚れていた証を視認するためには必要不可欠。
廊下と会場入り口に差し掛かって館内に流れるBGMが足音を殺した、フェードアウト。座っていた観客たちの壁がそそり立つ。冬眠から覚めたみたいにむっくりと起き上がった。
はじまりだ、はじまる、はじまってよ、はじまるさ。はじまるの?はじまるよ。はじまりはじまぁーりぃー。
がやがや、かやがや、ざわざわ、さわざわ、囁きと生体音が会場内に消えてく。
脇をすり抜ける足早の観客。うらぶれた廊下が寂しい、係員と目が合う。
始まりますよ、顔が言っていた。
憧れの香りが漂った。
行こう、取り入れよう、そして私を見てよ、解けて、溶かして。始まりの色を私に移す、その前に。