コンテナガレージ

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エピローグ

 ブースの外で腕を組み、見守る人物たちの総数は圧倒的に作業に忙しい者たちを上回る。

「ニホンゴ、ワカラナイネ。アナタ、ハ、ウタエ」ギターの男に肩を叩かれる。

「オーケー」十分だ、ネイティブの日本人だって会話の文法はめちゃくちゃなのだ、伝わる。何より、こちらは汲み取ろうという意識がある。思いやりとは、言葉の通じない人物たちの間で生まれた言語かもしれない。

 ブース内が足元の映像モニターに映る。全員の右半身だ。正面の映像は避けるよう頼んでいた。彼らには事前に了承を得た取り組み。リハーサルを盗み見るのに、真正面からしかもカメラを意識して見せ付けることが、果たして面白いだろうか、勝手に取られていた、流れてしまっていた、視界に入らなければ意識は欠ける、私とのセッションが異質であれば、なおさら存在は薄れてしまうだろう、私が提案をしたのだった。一週間前のことである、こちらは深夜、アメリカは昼ごろ、互いの背後から漏れる窓明かりが記憶に新しい。

 曲は私の専攻、ジャンルも一任された、とにかく彼らは私と演奏してみたいのだそうだ、世界のどこかで私の映像が見られる、失われる権利とたまにこうした未体験がひょっこりと相手から姿を見せる。乗り気ではなかった、彼女だが、試作の現場としては有意義に思えた。