コンテナガレージ

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エピローグ

 人を呼んだ。
 命令に従います、これといって別段変わった、不信な動きを匂わす兆候があったのでしょうか。
 異界の者、皆がそのように捉えるから仕方がないのかもしれない。
 部屋に一人、それから横たわる一人。いいや、一体と言うべきでしょうか。部屋の中央やや左にそれは寝そべる。空模様を尋ねた、天候に恵まれたとき天窓は等しく空を居住者に明け渡す。鳶の旋回が見られたことと思います。
 大勢集まる、部屋をめがけ人がなだれ込む。壊されたドアをさらに踏みつける部外者は私とそれから寝そべる方へ必死で呼びかけた。私は動いてはならない、見つけた者を止めた。助けが来るまで『中』に入ってはなりませんと。
 詰問を受けた。高圧的であり決め付けた態度は目を見張るものがあった、とにかく人はいくつも仮面を持ち合わせ日常とは別人格に変わってしまえる。本来の姿。よくよく対象を覗き込みます。私に接触を試みる人物と相対する、もう数十年を数える昔昔の出来事なのであります。同質、やたらと暑さが身にしみた記憶は今なお新鮮にありあり目の前に取り出せてしまえました。
 ありのまま、打ち明ける。けれど不満足な表情ばかり視野に飛び込む。そうではない、本当のことを正直に話せ。瞳は常々本心を語ります。不都合な機能、すんなり用件を聞き出せばよいものをなぜ前置きの気遣いを、それとは正反対の面持ちであるくせに善人を演じるのか。これが人でしたね……愚かさまでもその価値に宿す。辺鄙な北の、生い茂る林野のど真ん中に悠然と構える高床式の宿泊施設を建立するとは夢にも思わなかった。しかもそれに胸躍らせ高めた期待を保ち従順に呼び出しを待つ宿泊客、私には異界の者としか言いようがなかったのであります。
 利用時間の超過を伝えるべく部屋に足を踏み入れた、どうにも納得がいかないらしい、繰り返し幾度となく同様の質問が日が暮れ昇るも延々尋問は続きます。重要参考人、現場に居合わせるただ一人の目撃者と容疑者。これらが私の現在をいかんなく現している、といえましょう。
 人が死んでいた。無残にそれは潰れていました。殴打や踏みつけとは種類が異なる、いうなれば道路を均すロール付の車両に押しつぶされた、これが適切だろうかと。警察にもそのようにお伝えした。理解に及ばない、そういわざるを得ない。理解に苦しむ、という不確定な状態のままで未知の惨劇、判断に苦しむ明日を抱え込むなど御免こうむる。明言を避けたのですね。重荷を背負わずにいられたら、それでいて真相解明を待望するなどどの口が仰るのでしょう……。矛盾した行為を鏡に映してあげられたらばよいのですが、あいにく持ち物は取りあげられております。複数回何度も繰り返し切々としかも唐突に、聞き終えるまで退席はならない。この縛りのなかで語る必要がありそうです。

 ヤンヤヤーイ。
 ヤンヤヤーイ。
 森が鳴く。悲鳴だ。咽び鳴いてもいる。聞こえないのでしょうか、いいえ耳を傾ける姿勢ではありはしないのですから、それは当然なのかもわかりません。
 斜陽、星雲と比べます、煌々地上を照らす生活の明かりを。日暮に、夜中に、それらはいがみ合う。
 巣穴へは足を向けるつもりならば本来二人一組が通例でありますが、仕事と割り切りわっさわっさと分け入った。