コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 1

 畑は台地にあったらしい、玉蜀黍畑を抜け視界が開ける、三メートルほどの坂を下って舗装された道路と一軒の商店に出くわした。高台の塀に沿って川が流れる、用水路にしては川幅が広い。予測するに氾濫した際の土砂が平野部に堆積、それらが隆起し不釣合いな高台が現れたと思われる。水深はくるぶしを隠す程度、たゆたゆ水が流れる。店先に車が止まった、愛想を振りまく店長が窓越しに聞き込み、年季の入った店先に陣取る老人に尋ねる。源泉と思しき山々はかなり遠距離に構えるのだが、雨天にはそれほど流量が増してしまうのか、美弥都は判断しかねた。助手席の私は止まるなり車を降りた 水路を覗き込む、深さとその許容量が気になったのだ。一秒間に加わる降雨量と水源からこの水路までの距離に晴天時の流量、水路の容積……場所によって深さが異なるとなれば、傾斜の始まり水路のもっとも高いところを始まりに据えるか、しかし流れるのだから排出量も加味するのか、けれど私が覗き込むあたりで溢れるとなれば同時に他の場所でも氾濫が起きるかもわからない、ほとんど平地に近いので水路は微妙な傾きをつけているだろうし、美弥都は水路沿いに躍り出た角のその先を何気なく胸をそらし眺めた。
「まっすぐにそれからな、ほれ突き当たりを確かぁ、そうそう左に曲がってさぁ、そんまんま行けばつくじゃろか」、案外土地の者は建物の位置関係を直感に頼り記憶する。毎日歩くのに毎度取り出しては不都合であるからだろう。
 助手席、風が抜ける。
 指差した先、商店と水路の間を車は走る。道に迷う心配は取り除かれた。「森々たる林野の一群が訪ね先だろねぇ、私しゃぁは行ったことはぁないけど、大層人気があるとかないかねぇ、死ぬまでにやぁ一度拝んでおきたいもんだわなぁ、かーかっかっか」、照れ隠しの笑い、諦めの自虐どちらとも取れる笑みの老人がかき消した。 
「間に合いそう?遅れはしてないと思うけど……」ハンドルを握る店長が運転席で言葉を濁した。
「ほぼ電車利用と同時刻の到着かと思います」
「はっきり言うよね、美弥都ちゃんはそういうことをさっ」
「不満ですか?」
「すがすがしいよ。棘が鋭くって肌を痛めるけど」
 駐車場は地下であった。ぱっくりアスファルトの竪穴が空く、それは近づくにつれ地面に埋もれた二つの瞳にみえた。