コンテナガレージ

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熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 2

三ページ目

(メモから日記帳へ書き写した。ここからはフロント業務の合間を縫って、日記帳に直接書き込む。)


 続→

(警告は届いているのだからホテルには向かっているに違いはないのよ。言っておくが私が離れる間『ひかりいろり』を覗く宿泊客や部外者は存在し得ないと考えてもらいたいわ。このうら寂しくて人気のない石に覆われる施設内の現状を改めて説明しておく、誤解されてはホテルに抱く印象を誤って解釈してまうんでしょうから、たとえ警察でも利用者になりえなくとも噂が届いてしまっては、という懸念ですよ。ベッドメイクはお客様個人個人が次の利用客のためあるいは連泊する自分たちのため宿泊に際し義務づけられている。使用済みののシーツと糊の利いた清潔なそれらを外部から派遣される清掃業者が各部屋を回り交換、シーツのほか彼らは補充する備品等の交換と客室を含むホテル内の清掃も担う、これがまた迅速ったらない。午前十時のチェックアウトを皮切りに十一時までには隅々を清めてそれこそ風のように施設内を脱出するのだ。おわかりかしら、要するに蓋然でも偶然でも私が離れた予約室の前を通りかる用事がありません)

 あとは野となれ山となれ。館長と駆けつけた警察部隊とでドアへ体当たりに蹴破る衝撃を加えること数十分に入室に成功し、発見、発覚、疑念に疑惑、という流れであったのだ。忘れてしまわないように釈放された直後、自宅に送られる警察関係者の個人車両(異例のことであるらしい)で霞と薄れゆく合図に負けじともう少々の滞在を糖分という飴の栄養を与えて引き止め、書き付けた。薄手の日記帳に液漏れは万に一つと世間で評判の日本製の万年筆を使用したことは乾きを抑える吸い取り紙の持ち合わせが切れた事態に運も悪く遭遇したもんで、贅沢にも右ページにのみうねうね筆圧をかけた。
 ……あなたの証言は信憑性に欠けます、存在を真っ向否定された、実に数年ぶりの出来事だった。歴史だと事変や天変地異と肩を並べる変移だわ、元の鞘に戻ったとも言えるのかどうか。ただこれは言える。生きていてはやはりこの世界、いつまでたっても『許可』を与えられない。私の生まれ持った十字架から逃れるには、土に還る、海に溶け込む、宙に交じるしか方法が残されはいないのよね。解明と考察と再検証と、時間を置いて冷静に別角度と新鮮な態度という面持ちにも、もちろん言わずもがなよ、挑戦はしたさ。ああ、いけない。速度が落ちる、車が止まります、続きはまた次回へ。