コンテナガレージ

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熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

 階段を下りて支柱のような箱のような窓があり、しかし中は見えずに住まいのようであり牢獄にも映る、果たしてこれは?美弥都はその壁面をぱしぱし叩く店長と大木の威圧をかもし出す鉛色の塊を見上げた。数歩支柱を離れて山城が説明を施す。
「特別室『ひかりいろり』、予約制の個室。男の隠れ家、屋根部屋、ツリーハウスのような位置づけと思ってくださればわかりやすいでしょう。日井田さんがこれから働く喫茶店でも人の気配を敏感に感じ取ってしまう、気遣いに長け方が利用される部屋です」『ひかりどころ』は十字路の中央にそこから四方向に通路が伸びる。
「どこへゆこうと父親は肩身の狭い思いを強いられっ……」店長は私を見てはっと口をつぐんだ、その後に続く言葉を言い損ねた。そう、だったら人の親になどなるべきではない、と言い返される未来予測が一歩早かったのだ。
 進路を突き当たって右折し開いた横穴を喫茶店と紹介された。駐車場を南、その対面を北に据え喫茶店は中央の十字路を基点に、北西の位置関係。「三方向に広がる階段は札幌軟石が使われております、お客様に尋ねられる必ず聞かれますので」、と女性優先の手さばき、山城はにんまりと答えた。そうそう、とあとで目を通しておくマニュアルを持参しますので、とも忘れた伝達事項を思い出す。天井を斜めに見上げたので切れた電球を見つけた思ってしまう。
 一階と地下の中間、美弥都は店主と階段を下りる。入り口を入り左手に空間は伸びる、天井は階段に合わせ下に降りつくとやけに高い。真新しい二人用のテーブルが四席、奥の壁にぴたり寸法を測りオーダーメイドであろう飴色のソファが構える、対面の四脚は背もたれと座面の革も同系色だ。カウンターは十席。月を模したのだろう、月齢順にカウンター背後の石壁が時期に合わせた形に明り取りの窓が出迎える。カウンターの棚を回る月。ちょうど新月が床に沈み、上弦に始まり満月、下限という変遷の位置関係である、望月が最良と誰が決めたのかは満腹がこぼれんばかりをよしとする見誤りによる妄執が幅を利かせると、解釈に美弥都は自らを宥めた。