コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 5

 使用器具の配置決めに数分、焙煎豆(豆は密閉容器内の豆のみ、ストックはなし)とストロー等消耗品の数量を専用端末にて改めて目視し確認を取るのに約三十分、支配人山城の差し入れにより已む無く一度中断を挟み(スポンジケーキを片手で豪快に頬張り摂取、彼は雑談を期待した登場だったらしく目を丸めた表情は予測の範囲内)、それからカップの大きさと材質及び形状(口をつける縁とカップの口径)をつぶさに裏返し底の感触も丹念に読み取る。材質によって出くわす急速な放熱、その過去に習う。日井田美弥都という人物は経験に裏打ちされた仕事をこなす。書籍や情報端末をむさぼって知識を蓄えはしない、必要に迫られた希少なときに短時間それのみを得て即座、その情報の海を後にする。世情に疎く、コーヒーに関する専門知識はチェーン店に通うコーヒー通を下回る。とはいえ国主催の資格は手中に収められた、当然だろう、問わずともいわゆる専門知識の駆使が課題のすべてではなかったのだ。出場を決めたのもそれが一因である、負け戦に挑むつもりは毛頭なかった彼女。初見で豆が提示される出題方法は彼女の経験が存分に活かされた、毎日が試験そのものであったといえるからだ。情報を取り入れない、店の豆であろうと品種に関する知識不足が豆そのものをたった一つ味が手がかり、開店前のテイスティングは恒例、本日店に届いた豆の味見、その一度っきりである。二人で店を切り盛りする店主と従業員の二名の働き手の店内では数々すべき仕事が次々迫り押し寄せ、時に引き、思いがけずまたまた打ち寄せる、没頭などという称号獲得のための訓練時間があってたまるものか。