コンテナガレージ

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鹿追う者は珈琲を見ず 3

 解き明かしては身の危険が迫る、彼女は僕に忠告してくれたのかもしれない。
 喫茶店内の照明が消えた。美弥都は階段を上る、フットライトが階段の側面に青白く光った。水族館、いつか訪れた夜の水族館と記憶が交じり合う。自室に帰るかと思った美弥都は例の部屋で立ち止まり、しばらくその周囲を丹念に観察する。彼女を判ろうとすることは控えるのが今後に活きる、だって考えても土台僕の範囲なんて上下斜めに引き裂かれるのが目に見えているんだ。それにしてもだ、鈴木は募った想いを必死で押し込める。この人は一体何をいつも見て、そしてなにが見えているのだろうか、ああやって人目も憚らずにしゃがんで、背伸びをして、石の壁に触り臆面もなく対象物を内部を探ってしまえる。オンオフのスイッチ、切り替えが上手というのは当に超えた存在、こちらを今だって横目で睨むのだって実は計算じゃないかと思うんだけれど、それはあくまで視界の隅に僕が立っていて邪魔だから、と言われておしまいだよ。
 気の緩み、突然顔の前数センチに美弥都が迫った。遅れて距離をとる、窮屈な仰け反る鈴木はその体勢で彼女の質問を窺った。
「ドアは木製でしょうか?蹴破る可能性を家入懐士さんは日記によると想像に上げていた、材質が石であるとかみ合わない推論です。それともスライスする石の薄片を貼り付けた木製をしのぐ強度を誇り総石造りよりは劣る材質だと知っていたのか。いずれにせよ、バランスをドアが崩してしまってはこのフロアの石造りは用を成しません。つまり少なくとも薄い石はドアに張り付いてた、という解釈は初見の私でも導ける。無論彼は係員でしたのでホテル内のしかも部屋の利用が来館の目的らしい名物、構造を問いかけられる機会を鑑みると使用される部材についての知識を学んでいたことは当然とはいえますがね」
「……」見つめ合う、わざとであるものか、動けなかったのだ。鈴木は腿をつねって意識を引き戻した。「ど、ドアを含む建物内に使われる建材は配属前の研修でみっちり叩き込まれた、支配人の山城さんがフロントで打ち明けてくれました」
「室内を調べる許可は得られていますね?」
 美弥都の後頭部に鈴木は応える。「入られますか?」積極的な彼女の琴線に触れたのはありがたい、どうやって捜査に引っ張り出そうか今日一晩で策を練るつもりでいたが、これはなんとも……浮かれてはいけない見透かされるぞ。あくまで捜査権は僕に帰属し、彼女は僕の助手のような立場なのだ、帯を引き締めなおさないと、さもないと、である。