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兎死狐悲、亦は狐死兎泣2-1

 八月八日
 二日間を思い出してみようとするが、一向に映像が浮かび上がってこない。手帳を開いても二ページは白紙、空白は空寒い。いつも業務日誌をつけてたのが癖になってる。ようやっと自分が見え始めた。まだ朝のそれも日が昇ったばかりの午前五時。昨日上司は部屋に戻った記憶も……だめだ、きっぱり通信を拒む。誰にって、そりゃあ今日、現在、数秒前の今に決まってる。
 枕元の端末を引き寄せる、後頭部に枕をあてがう。連絡は一件もなし、か。寂しい感情を苛まれ、哀れ、自虐、己を追い込む、というのは相当思い違ってる。過去二日の足跡を辿る、用事や予定を入れていたらその前に連絡を取り交わす、その記録を調べたんだ。そして空振り。白々夜が明けてすっかり空は紫外、赤外、スペクトルの外ばかりの線ををたっぷり燦燦と地上に振りまく。
 車。文字が輝いて僕は飛び起きた、一目散に身支度を整える。頭髪はほどよくあちらこちらへ寝癖がつけているので、就寝直前にシャワーを浴びたと推測を立てた、日常生活のリズムは守られていたということか。意識を失くして帰巣本能だけで自宅に帰り着く酔っ払いを省けるぞ、この辺りでアルコールを提供するのは三キロ離れたコンビニぐらいなものだ、観光客向けのレストランはこの時期連日予約で一杯、ふらっと訪れても門前払いを食うだけだ、一年目で学んだ教訓を忘れるかってえの。いいや、忘れているのは事実か。それも違う、不一致。覚えていない、というのがありのままを言い表してるさ、そうそう、これすらも忘れる、考えて思い出す思考力は身に備わる。とにかく車だ、ナビに走行ルートの履歴が残っているはず。