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兎死狐悲、亦は狐死兎泣 4

八月九日
 狐は悪い、悪戯が好きであります。たいそう偏屈でして手におえず、その狐、仲間にも嫌われる。狐、茶色く、お腹の辺り、耳のうち側は白くて目は色々その時々やお昼までおりますと大層気取って見えます。夜は宝石、綺羅戯羅闇夜を飛び跳ねる。
 ある時分、猟師の仕掛け罠を見つけます。私は用心をしました。あたりを通りかかるときは慎重に飛び跳ねる位置を確かめます。背の高い叢になるべくならなるべくなら、と他の道を探します。そのせいか、多分理由は別に用意されてるのでしょう、食べ物にありつくことが難しくなりまして、住まいを移ろうと心に決めました。多くの見送りが私の門出を祝うのか、というと決してそうではありませんでした。むしろけれど私はこの方が気楽で良いのだと思っております、やせ我慢ではありません、元来一人が好きなのでございます。ただ兄弟がたくさんいるので、大勢がやがやわいわい騒がしい日常を皆さんは想像されるのでしょう。私は白い、白くありたい、よって一人でなくてはならないのでございます。
 新しい転居先を探しに出かけたときでございます、とんと見かけなくなった狐とばったり顔を合わせます、急なことで知らん顔をするには遅すぎました。
「これはこれは狐さん、いかがなされましたか?おやおやいつもの跳躍はどこへおしまいになったのでございましょう」
「うるさい、うるさい。いいからさっさと足に食い込む罠を兎、お前ははずすのだ。手が届かんのだ、言うことを聞け、この白いの!」
 だらだら狐は汗をたんと掻いておりました。どうしたものか、つかの間私は思案に耽入ります。そこはとても冷涼でかと思うとお日様が四つの偶角をかたどります。なんとも居心地の良い離れがたい場所でありました。よくもあり、しかし悪くもあったのでしょうね。
 私はその場、狐に深々会釈、ゆるりと離れました。声が聞こえて参ります、森の木々を伝い、真上から泣き声が降りてきます。どうすることもできません、私は実に非力であります、私のは丸く細かな作業には向いておらず、代わりに前歯がよくよく広くこれまた白く固く私を助けます。 
 声が小さく聞こえております。道すがら、笹薮を挟んであるお方にお目にかかりました。私はかくかくしかじか、狐について話しました、助けなさいとも助けてくださいとも言いませんでした。罠が仕掛けてありますからどうかお気をつけて、丁寧にその場所を避けるようにお伝えをして先を急いだのであります。その方も偏屈ですから見物にいかれたのでしょう。
 引越し先は大変心地がよいのであります。あの四角いお日様には適いません。魅惑的なところは真っ白ではいられません、真っ黒では私とはいえないのであります。そうお思いになりませんか、私は思ってしまうのです。すなわち私はここにいるのであります。